幌の中ではユーロが物思いに耽っていた。
フラン達は、フランが狙われたと信じてるみたいだが…そうは思えない。
あのアークエルフは“来い”と言ったから。フラン達は巻き込まれただけかもしれない。
自分のせいで…
フランはもちろん、リラもマルクさんも優しくて、三人とも好きだった。
だから、巻き込みたくない。もしも自分を狙っているなら、あの三人を傷つけて欲しくない。
都に着いたら三人とは別れて、皆は安全に旅を続けられる。
それでいい…
そう思ってはいても、どこかでもう一人の自分が反対していた。こんなワガママが許されるはずないのに。
「…どうした?」
突然マルクの声がして驚いた。昼寝をしているとがかり思っていたのだ。
「うん…ちょっと。」
「疲れたか。」
「…かな。」
ユーロがそう答えると、マルクは御者台の方に声を掛けた。
「ヒイラ草は?」
仕切りの布を持ち上げてリラが顔を出す。
「そこの箱。黄色い包みよ。」
「そうか。」
マルクは頷くと、箱の方に向かった。
「お疲れ?」
リラは首を傾げて身を乗り出す。
「…かも。」
「そう。じゃあ…ってフラン!しっかり手綱持ってよ!」
「リラがひっかけてるんじゃないか。」
「あら…まぁ、いいわ。」
ゴソゴソと上着の内側を探り、小さな紙の包みを渡した。
リラの上着には薬が沢山仕舞ってあって、魔法みたいにどんな薬でも出てくる。
「マルクに渡してね。」
そう言うと片目を瞑って顔を引っ込めた。
リラは憧れだ。明るくて優しくて綺麗で…。ユーロもいつかはあぁいう女性になりたいと密かに思っている。
「飲め。」
マルクがカップを差し出した。
「これ、リラが。」
もらった包みを差し出すと、マルクは中身を確認し、サラサラとカップに粉を入れる。
「これでいい。」
「いただきます。」
一口飲んだら、何だか酸っぱかった。
「まぁ、薬だからな。」
小さく呟く声。
別に、酸っぱいのは嫌いではなかったが…渋い。
薬なのだから仕方ないし、わざわざ作ってもらったのに不味そうな顔をしてはいけないと思うユーロ。
「…。」
飲み終わると、マルクは無言で瓶を渡した。
「え?」
やはり、妙な顔をしていたのかと少し焦った。
「口直し。」
そう言って出されたのは小さなスプーン。
「でも…」
中身は水飴。貴重品だ…
「…。」
何も言わずに見つめられて、何だか反論出来なくなる。
「いただきます。」
スプーンで中身をちょっとすくって食べる。
「美味しい。」
甘いものが大好きなせいか、自然と顔が笑う。
「…。」
マルクはやはり黙って頷き、ユーロの頭に
ぽふっ…
と手を置いてから瓶を片付けた。
そしてまた、誰もいないかのようにまた座り直して目を瞑った。
マルクはいつもこんな調子だと思う。あまり喋らないし、笑ったところなど見た覚えが無が、全然怖くない。
ユーロには、リラやフランに対する優しさが端々に見える気がしていた。
また元の位置に収まり、またくるくると考えを巡らせる。
…とは言っても堂々巡りだが…。
自分を捕まえたいヒトは…どんなヒトなのか?やはり、ロピカの都で自分を買ったヒトなのか…。




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