ナイラはポカンと二人の一連の動きを見ていたが、そこでやっと口を開いた。
「どうしてマオは抵抗しなかったの?」
いつものマオなら殴りかかりそうなのに。っていうか、反論は身体でしてたのに。
「俺が魔法を使ったら勝てないって解ってるんだろ。」
まだ少し笑いを含んだ声でクロが答える。
「違ぇ。一回くらってから身体が言うことをきかねぇんだ。」
マオが涙目で睨む。
よほどのトラウマらしい。
「女の子2回目?」
「いや、前はガキにしてやった。」
「最悪だった。」
クロは楽しそうで、マオは不機嫌だ。
「やっぱり国が違うと魔法も違うんだね。性別変えるなんて初めて見た。」
実戦ではもっと凄いんだろうね、と感心するナイラ。
「いや、そいつは実戦じゃあ絶対に攻撃魔法は使わないんだ。」
「そうなの?」
「そうだよ。エルフ最大の武器を使わないなんて力半分で仕事されてるみたいでクライアント的にもムカつくだろ?」
でも、クロにはクロの事情があるのだ。
クロが少し暗い顔をした気がして、ナイラは慌てて話題を変える。
「それよりも、服を準備しなきゃね。可愛いのがいい?」
「勘違いしてるくらい可愛らしいので頼む。」
「おまっ…!」
「任せて。ルピーは着せ替え遊びが大好きだから。」
「そりゃいい。」
「お前等!」
叫ぶマオにナイラは怪訝な顔を向ける。
「マオ、可愛いよ?」
途端に脱力するマオ。
「…あぁ…これからは男に口説かれるんだな…。」
そしてクロを睨んだ。
「お前には絶っっ対になびかないからな。」
「失礼だな。お前みたいな暴力女、絶対に口説かん。」
二人が睨み合っている中、ナイラはポンと手を打った。
「お化粧もしなきゃね!」
マオは再び顔を床に向けた。

少しして、マオは鏡の前に座っていた。
ナイラがルピーを呼んできて、あれこれマオに質問したが、
「…好きにしろ…。」
と呟いて、マオはどこかの遠いお空を眺めていた。
「いつかクロ助が寝てる間に粉をはたきまくって白エルフにしてやる…。
ついでに髪も黒く染めて、もう何だかわかんなくしてやる…!」
時々、鏡越しに目が合ってクロを睨む。
「機嫌直して。可愛い顔が台無しだよ?」
ナイラの笑顔。
「ほらほら、笑って?」
「マオ様、刺青はどういたしましょうか。」
「そこの色黒に訊いてくれ。」
どうでも良さそうな返事。
ルピーはクロを見た。
実は、マオの顔から首にかけての刺青は鬼族の力を制御するためのものなのだ。
そもそも鬼というのは人間から産まれてくる突然変異のようなもので、嫌になるほど力が強い。
その力を人並み程度に抑えるために施されるのが刺青、というわけだ。
「上から塗ったところであるのには変わりないからな、隠してくれ。」
刺青のメイドなんて怪しすぎる。
「かしこまりました。」
ルピーは手際よくマオの顔を作っていった。
「出来ました。」
出来上がったマオは、中々様になっている。少々目のきつい女の子だった。
カツラも被せたので、マオだなんて言われなければわからない。
「次は服だね、ルピー。僕、ルピーの着せ替え遊びが好きなわけが少し解った。」
ナイラが微笑む。
「ありがとうございます。」
「そうだ、マオ。」
クロが手を打った。
「なんだ。」
面倒臭そうな視線。

「スリーサイズを教えてくれ。」

マオ最速の拳がクロに向かったことは言うまでもない。




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