目的の村に着いたのは、午後のお茶の時間を過ぎたあたりだった。
周囲を森に囲まれてはいたが広がる畑に水をやる人々の姿は朗らかで、いい雰囲気の村だな、とフランは思う。
「で、知り合いの家ってのは?」
「あ、そうだったわね。マルク、代わってくれる?」
リラが手綱を取った。
少し進むと、
「あれよ。あそこの大きな家。」
「へぇ。」
隣に座るユーロが身体を乗り出した。
「可愛いお家だね。」
「ま、ね。この辺り一体を治めてるエン伯爵のお屋敷よ。」
お屋敷という割にはこぢんまりした大きさではある。
「偉い人なんだね。」
「…えぇ。いい人なんだけど、すっごく変わってるから覚悟しといて。」
「う、うん。」
そこは、村の奥にでんっと建った地味な建物だった。
地味ではあるが、庭はきちんと手入れされていて花壇には花がぽつぽつ咲き始めている。
門の前に馬車を止め、リラは扉を叩きに行った。
すぐに使用人らしき人が顔を出し、またすぐに引っ込んだ。
少しして、リラは馬車で待つ3人に手招きをした。どうやら招き入れていただけたらしい。
4人が揃うと、応接間のようなところへ通された。
外観よりは内装は豪華だ。屋敷は地味でもさすが伯爵ということか。
特に喋ることもなく座って待っていると、扉が開かれて一人の老人が入ってきた。
人の良さそうな笑顔を浮かべた背の低い、好々爺のようだった。



「リラちゃん!!」
リラの姿を見るなり駆け寄ってきた。
「お久しぶりです、伯爵。」
リラは立ち上がって苦笑しながら頭を下げた。
「久しぶりだね!元気だった?怪我してない?五体満足!?」
頭のてっぺんから足元まで見て、腕をぱんぱん叩く。
「で、今日は…」
そこまで言って、初めてリラの後ろにいる3人に気づいたようだった。
「お友達?」
「はい。」
本当に変な人だと思いながらフランは頷いた。
「そっかー。まぁ、お茶でも出すから皆さんも是非くつろいで行ってね?座って座って。」


半ば座らされ、お茶が並んだところで伯爵は笑顔で4人を見回した。
「で、今日はどうしてこんな田舎の屋敷にいらっしゃったのかにゃー?」
思わず、フランとユーロはティーカップに伸ばしていた手を止めて伯爵を見た。
「どうかしたかな?」
怪訝な顔をされ、2人は慌てて首を振った。
リラが変わった人物だと言っていたのが、よーーく解った。
「私はまだ旅をしています。近くを通ったので、久しぶりにお顔を拝見しようとおもいまして。」
リラは動じずに笑顔で返した。
「嬉しいこと言ってくれるね!折角だから泊まってってよ。派手なおもてなしは出来ないけど歓迎するよ?」
「よろしいんですか?」
「もちろん。嘘なんかついたって嬉しくないしね。」
その一言で、今日の宿代は浮いた。
「ありがとうございます。」
「ただね、こんな田舎屋敷に来るお客さんなんてあんまりいないから、客間が2つしかないんだよ…。それでもいいかい?」
「もちろんです。」
リラは笑顔で頷き、フランとユーロはぺこりと、マルクは軽く頭を下げた。




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