町を出発した馬車の中、フランが地図を見ながら呟いた。
「もうすぐ、着くなぁ。」
「?王都?」
向かいに座っていたリラがフランを見た。
「あぁ。」
「そうだっけ?」
リラは地図を覗き込む。
「まだまだよ。この森、抜けるの大変だもの。」
「そっか。」
二人がそんな会話をしている頃、ユーロは御者台に座ってウキウキしていた。
リラとマルクから外に座るお許しが出たのだ。
手綱は隣でマルクが握っている。
「〜〜〜♪」
「…。」
マルクはやや不思議そうにユーロを見た。
「そんなに嬉しいのか?」
「うん!」
ユーロは心底嬉しそうに頷いた。
「馬車の中で皆が聞かせてくれるお話も好きだけど、やっぱり景色を見るのが好き。
空の青さも生えてる木も、住んでたところとは全然違うんだもん。」
「南の方に住んでいたんだったな。」
「そう。精霊の森の近く。」
マルクは少し上を向き、前を見たまま呟いた。
「俺達には精霊の森こそが未知の領域なんだがな。」
「あ、そっか。」
そう言われて思い出した。精霊の森には王の許可を得た特別な人間しか入れないのだ。
…人間は。
精霊の森は文字通り精霊達が住む森だ。
この国の上級神官の中には精霊を使役している者がいる。
その精霊との契約を交わせる場所が精霊の森なのだ。ただ、森自体に強い魔力が働いているため、訓練を積んでいない人間が立ち入ると森に取り込まれてしまう。
「精霊の森はね、本当に不思議なんだよ。私、森を出てから今までに浮島を見てないもん。」
「浮島?」
「そう。浮いてるの。空に。」
マルクは信じがたいという顔をして首を傾げた。
「満月の夜には竜が島から飛び立つんだって。」
それは見たことないんだけど…とユーロはため息をついた。
マルクは怪訝そうな顔をしていたが、やがて「ふむ。」と頷いて元の顔に戻った。
と、そこに
「大変大変。」
とリラが顔を出した。
「忘れてたけど、このまま進むとやばいことになるわ。
この先の草原にキャラバンがいるって前の町の人が言ってたの。鳥で私達の連絡がいってる可能性もあるし。」
「…。」
マルクは馬車を止め、地図を睨む。他の3人も地図を覗き込んだ。
「そうか…それなら少し遠回りしてこちらの村を通ろう。」
「そうね。それにそこの村なら宿代が浮くかもしれないわ。知り合いがいるし。」
「本当か?そりゃありがたいな。」
「じゃあ、そうするか。」
マルクは再び馬車を進める。
「仲良しさん?お友達?」
ユーロが訊いたが
「えぇ…まぁ…。」
と、リラにしては歯切れの悪い返事が気になるところだった。




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