起きたら、二人が居なかった。揃って出掛けたらしい、と納得してリラは水差しから水を飲む。
ユーロには一人で出かけるなと釘を刺しておいたから、フランと出掛けたのだろう。
それはそれで不安な組み合わせだったが…フランだって滅多なことがなければ自分の身くらい護れる。
ユーロが側にいても平気だろう。
マルクは寝ているし、調度良いのでさっさと着替えることにした。
寝間着を脱ぐとひんやりした空気が肌に触れてベッドが恋しくなる。
でも、我慢だ。
さすがに寒いので、いつもの袖無しコートではなく、脱いだばかりの寝間着を羽織る。
町が少し賑やかになってきた。朝市で皆が朝食の材料を買っているんだろう。
と、いうことはもうすぐ朝食だ。お腹もすいてくる。
「マルク。」
リラはマルクの肩を揺すった。
「…。」
マルクは迷惑そうに寝返りを打つ。
「もうすぐ朝ごはんよ。」
「…。」
煩いとでも言いたそうな碧い眼差し。
「フランもユーロもいないから、今起きた方がいいってば。」
リラはベッドサイドにしゃがんで顔を覗き込む。
「…近い。」
「嫌なら起きて。」
朝の猫のようだと内心ぼやきながらマルクは渋々起き上がる。
腰に手を当てて自分を見ているリラはいつもの宿の風景だ。どこに泊まっても変わらない。
マルクは寝ていたいわけではなく、起こされたくないだけだ。
何度言っても理解が得られないのが不思議でたまらない。
「他の二人は。」
「散歩にでも行ったんじゃない?」
「そうか。」
それだけ言うと前髪を整え、上着を着た。
マルクの格好は下着とズボン。こんな時期に下着で寝るなんてリラには理解出来ない。
「いないなら、待つのか。」
「そりゃそうでしょう。置いてきぼりは可哀想だわ。」
「あいつは散歩が好きだな。」
マルクが腕を伸ばして背筋を伸ばす。ついでに眠たそうな顔で頭を軽く左右に振った。
リラはいつも、この姿を大きな犬がいるような感覚になる。本人に言ったことはないが。
「ユーロもね。あの子は景色を見るのが好きみたい。馬車の中でも外が見たいってぼやいてたわ。」
まぁ、例の追っ手に会う前だったから、それは当然叶わない望みだったわけだが。
「珍しいんだろうな。」
マルクはそう呟いて窓辺の椅子に座り目を閉じた。
「…。」
朝日が適度に暖かい。
「…。」
まだ寝るかこの男…。
リラは呆れ、悔しいので自分も向かいの椅子の上で目を閉じた。



「ただいま。」
フランとユーロが部屋に入った時、リラとマルクは頭を垂れて時間が止まったように動かなかった。
「おい、二人共。」
フランが二人を起こす。
「ただいま。」
ユーロが伝えると、二人は目を覚ました。
「お帰り。あんたが遅いから二度寝しちゃったじゃない。」
「悪かったよ。でも、ちょうど良い時間帯だぜ?」
もうそろそろ、パンが焼けるいい匂いがしてくる頃だ。
「そう?まぁいいわ。朝ご飯食べに行きましょ。」
「うん。」
四人は食堂まで降りていき、朝食を美味しくいただいた。




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