「要は金髪の野郎一人殺って銀髪の女を一人生け捕りなんだろ。」
「まぁ、そうだな。」
セントが頷く。
「ただ、一つだけ注意してもらいたいんだが、お前らの国の飛び道具は使わないでくれ。」
「?」
「回収し損ねた場合、製法が違うからアシがつく。あくまでも、事故で済ませたい。」
「野盗でもやれってか?」
「そんなところだ。全滅させたら金品を奪うとさらに効果的だな。」
「…。」
マオは呆れ顔でセントを見た。
「頼む。報酬は弾むから。」
「ま、別にいいんだけどな。おうクロ助、お前はどうなんだ?」
「内容はわかったから。」
クロは布巾で口の周りをぬぐいながら答えた。
「じゃ、大丈夫だね。」
ナイラがニコニコと頷いた。
「どうする?今日はもう休む?」
「…そうだな。」
「二人は一緒の部屋でいい?」
『…。』
二人は嫌そうな顔で顔を見合わせた。
「寝台は二つあるから喧嘩しなくていいよ?」
そういう問題ではない…という言葉をクロは飲み込み、しぶしぶ頷いた。
「構わない。」
「じゃ、案内してもらってね。」
ナイラは呼び鈴を鳴らし、部屋まで案内してきた侍女が現れて二人を連れて行った。




「…ナイラ…。」
「なぁに?」
残された二人は椅子にもたれて天井を見ていた。
「災難だったな。」
「うん。まさか、あいつと一緒にいるなんてね。逃がしてあげた籠のうさぎが狐に捕まるなんて、笑えないや。」
「だよな。」
「ワガママきいてくれてありがとう。」
「いいさ。新しい人生の第一歩だ。」
ナイラは身体を起こしてセントを見た。
「しかし綺麗に化けてるね。」
「だろ?俺にかかったらちょろいって。」
セントも身体を起こし、ニヤリと笑って口の中で何か呟く。
「顔は変わってないのにわかんないよ。僕もやれるようになりたいな。」
「お前にゃまだ無理だ。まだまだ修行不足だからな。」
そう言って笑うセントは髪と瞳の色が赤紫になって顔の模様が変わっていた。レアルの顔だ。
「引退したらさっきの姿が本当になるんでしょ?」
「あぁ。」
「もったいないね、その色好きなのに。僕も髪の毛の護符買おうかな。」
「…やるよ。そこまでせこくないし。」
「ありがと。」
「しかし…」
レアルは再び天井を仰ぐ。
「最善だとは思うが、上手くいくか…」
「らしくないよ師匠。僕は信じてる。だから…」
ナイラは俯いた。
「大丈夫、恐くなんかない。」
「声、震えてるぞ。」
その一言にムッとして黙り込む。
「…大丈夫。」
「ホントか?」
悪戯っぽくレアルの目が光る。
「な、何さ!?」
ふふ、とレアルが笑う。
「いっちょ前に強がってまぁ…」
そのままナイラの頭に手を置いた。
「ちょっ…」
抗議の声が上がったが、構わずに髪をくしゃくしゃと掻き回した。
「やめてよっ!いつまでも子供みたいにっ。」
「俺から見たらお前なんてまだガキだ。」
ナイラは身をよじったが身体の能力ではどうしてもレアルに敵わなくて、虚しい抵抗を諦めた。
「5歳だけじゃない!」
「そりゃ外見だ。何より俺は…」
「精神年齢が高い?」
「そうそう。」
当然、といった風にレアルが頷く。
「…そんなことよりも、死ぬなよ。絶対に。」
「当たり前だよ。僕もそんなの嫌だもの。…誰も傷つかない方法があればいいのに。」
「そうだな。でも、俺は早く安心したい。お前を失くすくらいなら、多少の犠牲はいとわない。」
固い表情のレアル。
「ふふ、心配性だね。」
「腐っても親だからな。」
ナイラは頭の上にあったレアルの手をどけ、両手で持って見つめてみた。
ナイラのよりも大きな手。でも、初めて会ったときよりはずっと小さく感じる。
「僕をここまで育ててくれてありがとう、父さん。」
「…ばーか。」
レアルは笑いながら手を引っ込めた。
「お二人共。」
ノックと共にクロ達を案内し終えた侍女が現れた。
「お部屋の用意が整いましたよ。」
「ありがとう。」
ナイラが立ち上がる。
「師匠は?」
「あ?俺はまだやることが残ってる。ルピー、お前も寝ていいぞ。火の始末は自分でする。」
「わかりました。」
「そっか。じゃあ、今日はもう寝るね。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
「あぁ。」
ナイラはルピーと共に部屋を出て行った。レアルは、仲良く並んだ背中を少しだけ嬉しそうに見送った。





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