少しして、お茶が運ばれて来ると同時に男が一人入って来た。
「いやいや、申し訳ない。」
随分と気楽に笑い、二人の向かい側に座った。浅黒い顔に人懐こそうな笑みを浮かべている。
両頬と額に赤い模様が書いてあった。
「セントだ。」
差し出される手。
二人は黙って軽く握手をした。
「遠路はるばるご苦労さん。」
「内容は変わりないのか。」
クロは単刀直入にきく。
「少しある。」
「そうか。なら、詳しい段取りの話に入りたいが…」
そこで、クロはマオを見た。
「ギャラリーはいらないんだよな。」
マオはひょいと扉の所まで行き、取っ手を勢いよく引いた。
「わっ!」
前につんのめったのはベールを被ったナイラだった。
「えへへ…」
気まずそうな笑い声と共に、大慌てで逃げようとする。
「待てって。」
しかしマオはそれを許さなかった。
「!」
手首を掴み、持ち前の怪力で抵抗するナイラを引き寄せた。
「何だお前、変な布なんか被って妖しい奴だな。」
「待て。妖しくはない。」
セントがベールを剥がそうとしたマオを止める。
「部屋にいろって言っただろう。」
セントは顔をしかめる。
「だって…」
ナイラはしょぼん…という音が聞こえそうな程肩を落とす。
「外国のヒト、見たかったんだもん…」
「誰だこいつ?」
マオは手を放して胡散臭そうにナイラを見る。
「この館で一番偉いお方だ。」
セントは溜め息混じりに呟いた。
「…そうか。」
クロは半ば呆然と返した。
こんな奴が偉い様とは、世の中不幸だと言わんばかりの様子だった。
「もういいから、ここに座ってくれ。」
その声を聞き、ナイラはそそくさとセントの隣に座った。
「初めまして。」
ベールで顔はよくわからなかったが、とりあえず美人なんだろう…とクロは思う。
「ナイラです。」
「…。」
マオが何か言いたそうにナイラを見た。
「?」
「それ、邪魔。」
「…コレ?」
ナイラはベールを引っ張った。
「あぁ。」
「待て、そりゃまずい。」
セントが顔をしかめる。
「いいんじゃない?国外の人だし。信用出来るんでしょ?」
ね?とナイラは二人を見た。
「守秘義務があるからな。」
クロの答え。
「プライドもあるしな。」
マオの答え。
「うん、いい答えだと思う。でも約束して。顔を見たことは誰にも言っちゃ駄目。」
「お姫様か。」
「ううん、王子様。」
そう言ってナイラはベールをとった。
『……。』
二人はしばらく黙り込む。
「これでいいんでしょ?」
顎に軽く指を沿え、笑顔で小首を傾げる。
「…残念だ…。」
マオが唸る。
「なんでその顔で男なんだ…。」
その言葉に、思わずクロも頷いた。
セントは苦笑いだ。
「まぁ、僕のことはいいの。あなたたちの名前は?」
「俺はクロ。こっちがマオだ。」
「わかった。よろしくね。」
笑顔で微笑み掛けられ、クロは反射的に俯いた。
「で、変更ってのは?」
内心焦りながらセントを見る。
「そうそう、頼んだ3人の他に銀髪の娘が一人いる。そいつを生け捕りにしてほしい。」
「怪我とかあんまりさせないでね。」
「攫ってくればいいんだな?」
「うんうん。」
ぐーーー‥
「?」
「腹減った。」
マオが仏頂面で呟く。
「すまん、じゃあ食いながら話すか。」
セントが呼び鈴を鳴らす。





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