「クロ〜?」
「ん?」
「俺、超ヒマなんだけど。」
箱馬車の中、マオがやる気の無い恰好でぼやいた。
「我慢しろ。」
確かに、こんな馬車では景色も見えない。
それにしても、まだ10分も経っていないだろうに…マオの口からは“ヒマ”という言葉が何度出ただろうか。
「はぁ…シード?」
「何だ?」
御者台から声だけが返ってくる。
「さっきのさ、似顔絵。見たい。」
「それなら俺が預かってるぞ。」
クロが絵を差し出すと、マオは紙を眺めながら神妙な顔で唸る。
「どうかしたのか。」
「いや、この女…」
国を越えて噂が飛ぶような凄腕なのか…と、クロは緊張した。
「結構美人だよな。」
「…。」
「生きてたら、もらってもいいかな。」
クロはマオに普通の反応を期待したことを後悔した。これから消しに行く相手を口説こうなんていう神経が、まずありえない。
「お前はそこそこの顔の女なら誰でもいいのか。」
「そこそこの顔じゃなくて、美人だよビ・ジ・ン。お前消す野郎の顔しか見てないだろ。見てみろって。」
生死問わないなら見ても仕方ないというのがクロの考え方だ。目的だけわかっていればいい。
「…。」
渡された紙を見て、すぐに返す。
「お前好みだな。」
マオはそれに頷き、もう一度紙を見た。
「でもなー、野郎が二匹もついてるから…」
「…俺、寝るから。」
付き合いきれなくて、クロは目を閉じた。
「おい、着いたぞ。」
エクシードの声に反応して馬車を降りた。
いつの間にか本当に眠っていたらしい。
「あー、腹減った。」
マオはぼやきながらステップを飛ばして地面に飛び降りた。
「ここは裏口だ。そこにいる女についてけ。案内してくれる。」
その屋敷は随分と立派だった。白亜の壁は赤い炎に彩られ、夜空に浮かび上がっていた。
ただ、遠くにも大きな建物が見えるということは、離れか何かなんだろう。
「じゃあな。俺は堅苦しい場所は嫌いだ。」
エクシードはそう告げると何処かに行ってしまった。
「…。」
クロとマオの前には若い女が立っていた。無言で一礼し、
「こちらへ。」
と案内される。
機械っ気はまるで無く、どこか不思議な雰囲気が漂っていた。
「どうぞ。」
通された部屋は書斎のような部屋だった。壁一面の本棚と、インク壷の置かれた机。
「そちらへ。」
勧められたのは長椅子だ。
「今しばらくお待ち下さい。」
女は頭を下げて出ていった。
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