4.予兆


目を開けると、銀色の糸が垂れていた。
フランはそれを疑問に思って引っ張ってみた。
「っひゃあ…」
おかしな悲鳴。
「あ、おはよう。」
振り向いたユーロが笑う。
「ご、ごめん。」
慌てて身体を起こすフラン。
「早く起きなさいよね。」
リラの呆れた声が降ってくる。
「…。」
何となく恥ずかしいのかムカついてるのかわからない複雑な気持ちでフランは身体を起こす。
マルクを見ると、パンを焚火であぶっていた。
「おはよう。」
「…。」
いつものように無言で頷きを返すだけ。
「食べましょ。」
「うん。」
ユーロが嬉しそうに頷き、フランにパンを差し出した。
「ありがと。」
『いただきまーす。』
3人の声が重なった。

「あの、お塩とってもらえる?」
「どーぞ。」
黙々と食べる4人。
「次はいつ村に着けるかしら?」
「しばらく無いんじゃないか?」
地図を見てフランが首を傾げた。
「2日はかかるな。」
マルクも覗き込んで頷いた。
「そう…買い足したいのよね色々。」
「そんなに買うもんあったか?」
「うん。」
「ふーん。」
そのまましばらく沈黙が続き…
「あ、マルク。残さないでよ。」
リラがマルクの皿を見て声を上げた。
「俺はこれに蜂蜜を使うのは反対だと前から言っている。」
「私は入ってる方がいいの。いいじゃない、滅多にハチミツなんて入れないんだから。」
「手に入ったら毎回使うだろう。」
「いーじゃないの別にー!食べないと栄養が偏るわよ。」
「…。」
マルクは無言でリラの皿を見た。
「な、何よ。」
「それは何だ?」
「…。」
リラの皿の上には、それだけ器用によけられた野菜があった。
「…苦いじゃない。」
笑顔。
「栄養が偏るぞ。」
真顔。
「もー!」
「…また始まった…。」
フランはげんなりした様子でカップに口をつけた。
「ねぇ。」
ユーロがフランを見る。
「皆はどれくらい一緒にいるの?」
「んー‥大体2年だな。」
「長いんだね。」
「あぁ、でも幼なじみだから…初めて会った時からは10年以上経ってるかな。」
「そっかぁ。兄弟みたい。」
いいなぁ…と微笑むユーロ。
「なぁ、ユーロの兄さんはどんな人なんだ?」
「んー‥似てるけど、顔はあんまり似てないって言われたかな。兄様はおっきくて優しいの。」
「じゃあ、ユーロは父親似なのか?」
女の子は父親に似るっていうし。
「ううん。母様に似てるって。私と兄様は異母兄妹なの。」
「…。」
…兄が神官なら親は貴族だろう。まさか、片方がショウフクなのだろうか。だとしたら、兄妹仲が良いというのは…有り得ないと言っていい。
「…。」
「兄様のお母様はずっと昔に亡くなったんだって。」
「…そうか。」
少し安心した。
「他に兄弟は?」
「いないよ。フランは?」
「俺は兄貴が一人かな。」
「へぇ。」
「兄貴は俺と違ってガチガチの真面目人間なんだ。」
「フラン!!!」
「!?」
リラの大声。
「お皿片付けるわよ!」
どうやらマルクに負けたらしい。
「はいはい…」
リラが籠に皿をほうり込み、フランはそれを持って水辺まで行った。
ユーロはそれを見送り、リラの手伝いに向かう。




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