男だと判断したのは声と体格だ。顔の下半分も布で覆っているから顔は全くわからない。
「遅かったな。座れよ。」
クロは隣のテーブルから空いた椅子を引き寄せた。
「お前もだ。」
「…。」
マオは不機嫌な顔で請求書をポケットに突っ込んだ。
「で?」
「こいつを消して欲しい。」
差し出されたのは人相描きだ。
珍しい服を着た金髪の男だった。
「優男だな。」
「お前が言うな。」
マオが半眼で呟く。
「でもなんで二人なんだ?コイツそんなに強えの?」
「いや、殺って欲しいのはそいつだけだ。ただ、仲間がいてな。」
依頼人はもう2枚の人相描きを取り出した。
隻眼の男と若い女が描いてある。
「こいつ等には気をつけろ。特に男の方だ。」
「この女…」
マオは呟き、頷いた。
「俺は受けるぜ。」
「…いいだろう。」
「助かる。」
依頼人は手を差し出した。
二人は順番にその手を握った。
「あんた、名前は?」
「エクシードだ。」
そう言って男はフードを取った。
深緑の髪がバラリとこぼれ、紫の目がクロを見つめた。
「悪いが急ぐんだ。今夜にでも発てるか?」
「場所は。」
「ヴェストファーレン王国だ。」
「遠っ!」
マオが叫ぶ。
「国境越えか。」
クロも考え込んだ。
「心配するな。すぐに着く。」
「バカ言うな。馬車を使ってもあそこの国境まで軽く一週間はかかるんだぞ。」
「心配するな。」
「お前な…」
何だかヤバそうなニオイがして、二人は視線を交わした。
「とにかく受けるのか受けないのか。報酬は約束する。」
『…。』
黙って顔を見合わせた二人に、エクシードは金の指輪を二つ渡した。
「依頼主からだ。信じる信じないは別として、厄避けのまじないがしてある。」
「高そうだなー。」
マオは明かりに透かしてみている。
「まぁ、そこまでド高いわけじゃないが…その請求書の金額くらいは払えるはずだ。」
「サンキュ♪」
マオは嬉しそうに指輪を仕舞った。
「じゃ、お前は受けるんだな。」
「おう。」
「お前は?」
「…相手に関する情報が少な過ぎる。」
「それは依頼主本人からきいてくれ。心配するな。忘れ物をしてもすぐに戻れる。」
法力国家だからな。と、エクシードが呟く。
「本当に“すぐ”なのか?」
「あぁ。」
「じゃあ、今すぐ発てばいい。詳しい話は向こうで聞かせてくれ。」
「いいだろう。でも俺もやりたいことがあるからな。1時間後にしてくれ。」
エクシードはフードを被って席を立った。
「落ち合う場所は。」
「中央公園だな。馬車の通りが多い。」
「わかった。」
「期待してる。」
そう言い残してエクシードは店を出て行った。
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