翌朝、やはりクロの目覚めは快くはなかった。
「…どけ。」
赤い目で睨まれても、腹の上に座ったマオはどこ吹く風だ。
「遊ぼうぜ。」
「嫌だ。」
「じゃ、どいてやらない。」
「なら6時までこうしてればいい。」
「朝飯食えねーぞ。」
「構うもんか。」
「つまんねー奴。」
マオから解放され、クロは起き上がった。
朝食はパンとミルク。二人共が不精なのでオカズは全部カンヅメ。目玉焼きすらない。
「なぁマオ。前から思ってたんだけど、お前ってどうして俺と一緒にいるんだ?」
パンをちぎりながらクロは呟いた。
「面白いから。」
マオはミルクを口に流し込みながら器用に答える。
「何で?」
「そりゃあな、お前みたいな奴は滅多にいないぜ?」
「黒エルフだから?」
クロは自分の手を見つめた。
黒い肌…
ぴっと伸びた長い耳も…黒エルフの特徴だ。
「違うね。腕はいいクセに、いっつも生きることを考えてないトコロがさ。」
「…考えてない?」
「お前、他人を信じないって言ってる。でも本当は信じたくてしょうがないんじゃないのか?
人を殺すことに気持ちが揺らがないって?ウソだね。仕事の後のお前はいつも罪悪感の塊だ。」
「な…」
マオは続けた。
「だから、いつも棺桶に片足突っ込んだような顔してんだよ。つまんねぇ。」
さっきは面白いと言ったその口で。
「…だったら退屈しのぎに殺ればいい。」
「それは最高につまんねぇ。」
「お前はいつも…そればっかりだな。たまたま、成り行きで一緒に仕事してるだけだろ?俺達は。」
代わりはいくらだっているはずだった。
「お前みたいな死にたがり、そうそういねーよ。」
「死にたがりか。」
「でもどうせ自殺は出来ないんだろ。」
「だから…」
「言っとくけどな、俺はお前を殺る気はないぞ。」
マオはコンビーフの刺さったフォークをくわえた。
「俺はクロのことが嫌いだからな。」
「…嫌な奴。」
「俺は嫌いな奴に親切にしてやる気はねぇの。だけどお前は…」
そこでマオは金色の目を煌めかせて身を乗り出した。光彩が細い目は黒猫のようだ。
「俺から離れられない。」
アハハと笑い、マオは席を立った。
「今日の約束、忘れるんじゃねーぞ。」
それだけ言い残して出ていった。
(ナメられたもんだな。)
クロは憮然とした顔のまま朝食を終えて武器の手入れに向かった。
解散、という言葉が頭をよぎった。




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