「魚、沢山いるね。」
水の中を見ながらユーロが言った。
今日の宿は湖から流れる川のそばだった。
少し歩けば湖にも着く。
「そうね。今日は魚料理にしよっか。何がいい?」
「んー‥煮たヤツ。」
ユーロは少し考えて答えた。
「煮込みはちょっと時間的に無理ねぇ…あ、焼いたのに野菜ソースかけようか。」
「美味しそうだね。」
「じゃ、決まり。」
リラは満足気に頷くと、マルクを見た。
「では、マルク。その剣で魚…」
「俺は剣士であって漁師ではない。」
「何言ってんの。剣っていうのは人を守るためにあるんでしょ?」
「だから、さっき使っただろう。」
「違うでしょ。私たちが飢え死にしないように守るのも…」
「お前かフランがやればいい。」
二人は飛び道具が得意なのだから。
「駄目よ。飛び道具はデリケート使い捨てなの。人を殺すんじゃなくて生かすために使う剣は素晴らしいわ!」
ビシッ
人差し指をマルクに突き付けるリラは妙に迫力があった…。
「…。」
口論に疲れたのか、マルクは剣を下げて川へ向かっていく。
「…勝ったっ。」
小さくガッツポーズをするリラ。その横で苦笑するユーロ。
先程の緊張感が嘘のように平和な光景だった。
「フラン、薪拾ってきて。」
箱の中から調味料を取り出しながらリラが言った。
「はいはい。」
フランは枯れ枝を拾いながら森の中をブラブラして帰ってきた。
「おかえり。」
「おかえりなさい。」
ユーロはリラと一緒に野菜を刻んでいる。
サク…サク…サク…
皮が剥けていく音がする。
二人が切り終わるまでに火でもつけようと思い、石を打ち合わせる。
…何だか今日は調子が悪いらしく、中々火がつかない。
「あの、やろうか?」
後ろからユーロの声がした。
「?」
振り返ると、杖を持っている。
「あぁ、悪いな。」
立ち上がって場所を譲ると、ユーロは薪の上に杖をかざした。
「……。」
ぽっ…
火がついてパチパチと燃え始めた。
「助かった。凄いよな。」
フランが笑うと、ユーロもはにかんだ笑いを浮かべてリラの隣に戻っていく。
と、そこに
「ほら。」
マルクが魚を持って来た。
「ありがとー。」
リラは早速魚を捌きにかかる。
「手伝う。」
ユーロが手を出そうとすると、リラは首を振った。
「大丈夫。それより、身体でも洗ってらっしゃい。さっき淵があったでしょ?向こうにバレてるなら顔の模様も描かなくていいしね。」
「あ…うん。リラは?」
「私は後でいいわ。今は魚を捌かなきゃ。」
「うん…」
ユーロはイマイチ乗り気ではなさそうだが、無理もない。
人買いに捕まっていたし、さっきは追っ手が来た。
「泳げない?」
「ううん。泳ぐのは好き。」
「あ…ひょっとして一人じゃ寂しい?」
リラは困った顔をした。
フランはそんなリラを横目に、デリカシーがないと思いながら鍋を温めていた。
「フラン、ついてってあげなよ。」
「は!?」
フランは素っ頓狂な声を上げた。
「さっき襲われたばっかりなのよ。気が利かないわね。」
「いや、それはわかるけど…まずいんじゃないか?…何となく。」
「あら、だって私は食事の準備があるもの。」
「マルクに行ってもらえばいいだろ。」
「マルクは魚を取ってきてくれたわ。魚も捌けるし。あんたじゃ捌けないでしょ?」
「そりゃ、そうだけど…」
「それとも何?ヤマシイ気持ちでもあるの?」
「ねぇよ!」
「じゃ、行ってらっしゃい。ついでにあんたも洗ってらっしゃい。」
そう言ってリラは布を2枚ユーロに渡した。
「大丈夫。あいつ、結構お堅いから覗いたりしないわ。」
囁かれた言葉にユーロは目を丸くし、聞こえてしまったフランはそっぽを向いた。
「じゃあ、行ってきます。」
ユーロはついさっき戻ってきた自分の服を抱えた。
「じゃ。」
フランが先に立って歩き始める。
「夕飯までに帰るのよー。」
リラは二人を笑いながら見送った。
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