夜。
レアルは長椅子の上に寝そべっている。向かいの椅子ではナイラがハープを弾いていた。昼間、練習した曲だ。
「…どうかな?」
「んー‥まぁ、いいんじゃねぇの?あと少し、欲を出すなら高音の出し方だな。もう少し‥」
レアルが楽器を取って弾いてみる。
「こうだな。お前はこうやってる。」
「はーい。練習しとく。」
ナイラは楽器を受け取り、横に置いた。
「で?話は何?まさか、演奏を聴きに来ただけじゃないよね。」
「…妙に聡いガキは嫌だねぇ…。」
レアルは肩をすくめる。
「…育て方が良かったんじゃない?」
「そりゃどーも。お褒めに預かって光栄だ。」
「んで?結局なんなの?」
ナイラが促すと、レアルは口を開いた。
「うん…あのな、逃げたらしい。」
「へ?」
「お前が欲しがってた奴隷。」
「あぁ。」
そこで納得がいった。
「奴隷って…僕は奴隷として欲しかったんじゃないよ。」
「まぁな。」
「で、どうなったの?」
「まだわからん。調べ中だ。」
「無事ならいいよ、別に。」
ナイラは微笑んだ。
「ま、転売されてたら取り返すか。」
「そうだね。意味無いもの。」
そこで一息つく。
「…逃げちゃったか。」
背もたれに身体を預けて呟いた。
「様子、見て来るか?」
「あのね、師匠は有名人なんだよ。髪型が変わったからって…」
「大丈夫だ。こっそり見て来るだけだから。チョッカイかけるなら人でも雇うさ。」
「ふーーー‥ん。」
半眼で疑わしそうな顔をするナイラの視線を軽くかわし、レアルはバルコニーへの窓を開ける。
夜風が頬を撫で、切り揃えた髪がなびいた。
「じゃ、行くわ。」
「もう行っちゃうの?」
ナイラの目が丸くなる。
「言っただろ?仕事が多いんだ俺様は。」
皮肉っぽくレアルが口の端を吊り上げた。
「…あ、そう。」
少々膨れた顔が答える。
自分を追い出すための仕事なんて…。
「ん、じゃあな。夜更かしはほどほどにしとけよ?」
「解ってる。まだ早いけど…おやすみなさい、お父様。」
「キモイわ!」
レアルはそう言い捨てて自分の部屋に戻った。
最近はナイラの部屋がある建物に泊まりっぱなしだ。
「さて、と。」
机の上の上の紙束を見つめ、溜め息を漏らす。
(何でこんなにあるんだ…)
文句を言っても終わらないのでしぶしぶとりかかった。





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