「いい?あなたは南領を抜けるまで荷台から降りたら駄目よ。」
リラにそう言われ、ユーロは黙って頷いた。
しばらくして馬車は停まり、またすぐに動き出した。
「街は抜けたわね。」
リラが微笑む。
「急げば今日中に南領を抜けられるわ。」
「あ、ありがとう。」
実際のところ、連れて行ってと頼んだ本人はここまでしてもらえると思っていなかった。
せいぜい、木箱に詰め込んでもらえればいいと思っていたのに。
「さて、じゃ、改めて自己紹介ね。私はリラ。トレジャーハンターよ。」
「トレジャーハンター?」
「そう。遺跡とか、色々調べるの。見つけた宝は私がいただくの。古代の夢を追う職業ね。」
そこでリラは御者台との間に垂れていた布を引いた。
「あっちの髪が短いのはマルク。私のボディガード。傭兵なのよ。」
「お友達じゃないの?」
金色の目が少し見開かれた。
「幼なじみよ。」
「雇ってるの?」
「うーん…雇って…はいないわね。お互いの仕事を手伝ってる感じ。」
「相棒?」
「ま、そんな感じかしら。要は仲間だわ。で、髪の長いのがフラン。」
「よろしくな。」
フランは笑顔で振り向いた。
「吟遊詩人なのよ。あいつも幼馴染みなの。」
「そうなんだ。」
ユーロは三人を順繰りに見回した。
幼馴染みの友達同士で旅なんて、素敵だ。
「リラは、次は何処に向かうの?」
「次はね、王都にを越えて北の遺跡。面白そうな洞窟があるの。」
「へぇ。」
ユーロの目が輝く。
「どんなところ?」
「水の森にあるの。洞窟全体が緑に光ってるんですって…ってそんな話はいいの。貴女の自己紹介は?」
「あ、そっか。…えっと、ユーロです。エルフの村から来ました。王都にいる兄に会いに行きます。…途中で捕まりました。」
「はい、よし。」
リラが笑う。
「王都までよろしくね。」
「うん。助けてくれてありがとう。もう、二度と母様にも兄様にも会えないかと思った。」
「母様?変わった呼び方するのね。」
普通は、そんな呼び方しない。
「変かな?でも、兄様みたいに『母上』って呼ぶ方が変だよ。」
クスクス笑うユーロを見て、リラは何だか納得した。この子は、貴族の娘なのだ。
(だからヌケてるの…。)
「お兄さんが大好きなのね。」
リラは話題を逸らした。
「うん。もう随分会ってない。」
「カッコイイ?」
からかい混じりにきくと、
「うん。」
即答で返ってきた。
(べったりかしら…?)
「ちょっとフランに似てる。」
その一言で、フランは前につんのめり、リラとマルクは無言でフランを見た。
「な、何だよ…。」
「ユーロがカッコイイと思う顔はこんな顔なのね…。」
悪いとは思わないけど…とリラは続けて首を傾げる。
「何でそういう反応するかな。」
フランは少し傷ついた。
「そ、そっくりってわけじゃないから。」
慌てた声。
(それはどっちの意味だ…?)
「でも、兄様のが大きかったような気がする。」
「しかも身長負けかよ…。」
また、フランは微妙な気分になる。
「まぁ、そんなに気にしないことね。」
リラはさらりと流した。
「お前、人事だと思って…。」
「だって、見たこともない人じゃない。」
「…。」
やはり煮え切らない思いを胸に、フランが黙り込んだ時、ユーロは少々慌てて話題を逸らした。
「それで、リラが次に行く洞窟はどんな所なの?」
「そうそう、だからね、緑なの。奥には薬草があるの。」
「リラは薬も好きだもんな。」
「そうよ。博学なんだから。」
胸を張るリラが何だか可愛くて、ユーロの顔から笑みが零れる。



しばらく三人で喋っていると、マルクが久々に口を開いた。
「もうすぐ関所に着くぞ。」
「じゃあ、引っ込みましょうか。」
リラはカーテンを引き、荷物に寄り掛かって目を閉じた。
ユーロは緊張した顔で膝を抱える。
「大丈夫よ。」
「…うん…。」
「もし降りろって言われても、目は開けちゃだめ。」
金色の瞳はエルフの証だもの、とリラは肩をすくめる。
「…うん。」





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