関所越えは緊張の連続だった。
「降りろ」と番兵に言われた時、ユーロは身体が強張って上手く立てなかった。
「いいわ。座ってなさい。」
そう言って降りていったリラの気転でその場をしのいだ。
何がなんだかわからないうちに関所は越えていた。
気がついたら、リラとフランが隣で地図を広げていた。
フランの言葉から察するに、リラは色仕掛けに出たらしい。
「いつもながら凄いと思うよ。」
「伊達に踊り子やってたんじゃないの。色っぽく見える仕草とか習ったんだから。」
フンッと胸を張るリラ。
「俺、お前にああゆうコトされたら鳥肌が立ちすぎて死ぬと思う。」
「失礼な奴ね!」
「とりあえず、目つきが違うわ声が違うわ仕草はねちこいわ…。」
「その口、縫い付けてあげましょうか?」
「遠慮しとく。」
ユーロの目の前ではそんなやりとりが続いている。
とにかく、リラが身体を張ってくれたのだから、自分も身体を張ってリラに返そう、と思った。
色仕掛けは無理だが。
『ユーロ?』
さっきから黙っていたせいか、二人が同時にユーロを見る。
「うん、なんていうか、本当にありがとうね。」
それしか言えない。
「いいのよ。どうせ、積荷を見られたら捕まりそうだったし。」
「!?」
ユーロは面食らう。
そんな、これは一体どういうことだろう?
「え、なんで?」
「いや、実はさ、南領から持ち出し禁止の薬草が何種類か積んであるんだよな。」
「でもね、本気で不出じゃなくて、お金を払わないと持ち出せないの。」
「それが高くてさぁ、小さな一袋で20フィーロ。」
フランが見せた袋はユーロの手のひらに乗せても余裕があるような大きさだった。
「た、高っ!」
ユーロは思わず声を上げた。
20フィーロといえば20000ラクスだ。街の露店でジュースを一杯飲むと20ラクス。
食事をしても150ラクスでおつりがくる。
「な?持って出るなって言ってるようなモンだろ?」
「う、うん。」
「だから、3袋くらい、ちゃっかり。」
「へぇ…。」
何だか、凄い。
「売るの?」
「売らないわ。よく効く傷薬なの。自分達で使うわ。」
大部分は。という部分をリラは言わなかった。
「そう、良かった。」
「もう、心配しないで。そこまで極悪じゃないわよ?」
あはは、と三人は笑い、マルクは半分呆れながら御者代に座っていた。





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