「入るわよ。」
ノックをすると、リラは男二人の部屋に入った。
「お。出た出た。」
髪をくくっていたフランが笑う。
「笑わないで頂戴。」
憮然とした顔でリラはフランの隣にドスンと座った。
「おわっ!」
ベッドが揺れ、フランがバランスを崩しかける。
「ったく、やめろよな。両手が塞がってんだから。」
「失礼っ」
「誠意の無い返事なこって。」
「どこが?これ以上ないほど礼儀正しいわ。」
リラはツンと返事をする。
「お前…」
「そのあたりにしたらどうだ。」
一人で黙々と鎧を着ていたマルクが呆れ顔で呟く。
「…はーい。」
「わかったよ…。」
やや、しょげる二人。
「しかしな…何故あんな娘を連れて来た?あの耳、どう見てもエルフの血が入っているだろう?」
「あぁ。でも、何だか見捨ててきちゃいけない気がしたんだよ。」
「…あんたって…」
言いつのるリラをフランは遮る。
「大丈夫だって。」
「もう、巻き込まないんじゃなかったのか?」
マルクの静かな声。
「ん…大丈夫だよ。王都までだから。」
「甘いな。」
「お蔭さまで。」
フランは肩をすくめる。
「俺は、お前のそういうところは嫌いじゃない。だが…」
「わかってる。でも、頼む。これで終わりにするから。」
「それは…」
リラがフランを見る。
「そうじゃない。俺はやるよ。正面から向き合って、ぶつかってやる。」
「…そう。」
「ついでに勝つ。」
「ついでってあんた…」
微笑むフランに、リラは少しだけ目を伏せて溜め息をついた。
「まぁ、何にしろあの子を助けたのは良かったと思うわ。」
「?」
「忘れたの?ここは南領よ。」
「あ。」
南領はエルフへの偏見が強い。芸事が盛んな都だから歌や踊りが上手なエルフをライバル視しているのだろうか?
とにかく南の人間はエルフがあまり好きではない。
「多分、買われても苛酷な労働ですぐに死んでたと思うわ。勝手な考えかもしれないけど、一人でも助かって良かったと思うの。」
「そっか…。俺、そんなこと頭に無かった。」
「あんたって色々とほっとけない奴よね。」
「考えなしとも言うな。」
「マルクまで言うか?」
「俺は本当のことしか言わん。」
「…。」
三人の間にしばしの沈黙が下りたとき、ドアか控えめなノックの音がした。





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