「で、あなたはまた何で一人でいたの?」
リラが首を傾げる。
「あ、はい。半年程前に離れて暮らしていた父が亡くなったんです…。突然だったので葬儀には出られなくて…。
でも、兄から手紙が来ました。大切な話らしいので、母と暮らしていた村から都まで行くつもりが…
途中の宿で捕まってしまって…。」
「都って、王都?」
「はい。」
「俺達と一緒じゃん。」
フランが思わず口を挟むが…テーブルの下で足を踏まれて笑顔を引き攣らせた。
「皆さんも王都まで行くんですか?だったら…ついて行ってもいいでしょうか?」
ユーロがフランを見る。
「あなたねぇ…」
リラが意地悪く笑った。
「私たちがまた売り払うかもよ?」
「…その時は…その時です。私はリラさん達を信じてますし、ダメだったら私が甘かったっていうお話です。」
「あら…随分と信用されてるのね?フランの手腕のお陰かしら…」
「信用じゃあありません。信頼です。」
ユーロは真顔でリラを見た。
「信頼、ね。いい言葉だわ。」
リラは両手を上げて首を振った。
「降参よ。」
「ありがとうございます。」
ユーロは笑顔で頭を下げる。
「でも、もう少し人を疑いなさいね。」
「はい。」
笑顔で頷くユーロを横目に、リラは二人に目配せした。
「しかし…お尋ね者よね…どうしようかしら?」
この娘、高そうだし?と、二人を見る。
「リラ、一肌脱いだらいいと思う。」
カップに口をつけながらフランが提案する。
「ん〜‥」
リラは唸ったが、最後には頷いた。
「ま、そうするしかないわね。ホラホラ、じゃあ、準備するから片付けて。」
「はいはい。」
フランが皿を重ね始めたのでユーロも手伝う。
「じゃ、後でそっちの部屋に行くわ。」
「わかった。」
リラ以外の3人が食器を持ち、廊下に出る。
「俺とマルクで運ぶから、ユーロは戻りなよ。」
「ありがとうございます。フランさん。」
「コラコラ…『さん』は余計だよ。こっちもユーロって呼んでるんだからフランでいい。な、マルク?」
「あぁ。」
「はい…じゃなくて、うん。」
「よし。じゃ、後でな。」
二人と別れ、リラの部屋に戻る。
リラは何かを探しているようだった。
「探し物ですか?」
「そう、あなたの服を探してるの。」
「べつに構いませんよ。このままでも。」
ユーロは自分の服を見た。
「ダメ。」
リラが断言する。
「え?」
「あなたは追われてる子。変装しなきゃ。私もこんな格好してるんだし。」
そう言って立ったリラは、ヒラヒラと飾りがついたズボンに、上半身は胸当てだけという格好だった。
ユーロはその姿を見て
(踊り子さんだ。)
と思った。
「結構恥ずかしいんだから、このカッコ。」
リラが少しだけ、頬を赤らめて早口になる。
「……。」
ユーロはしげしげとリラを眺めた揚げ句
「とっても似合ってますけど…」
と呟いた。
「…ありがと。」
ヤレヤレと首を振るリラ。
橙がかった金色の波が揺れた。
「とにかくコレは変装よ。いい?」
「はい。」
「あなた、ハーフエルフみたいだけど、歌は?」
「はい…一応。」
「じゃ、コレ着て。」
ついっと白い服を差し出す。
「その髪は目立つから、これ。カツラとベール。」
「はい。ありがとうございます。」
相変わらずペコリと頭を下げるユーロを見てリラが苦笑する。
「これから一緒に行こうっていうのに、そんなに改まらなくていいわよ。」
「あ、うん。わかった。」
「よろしい。じゃあ、着替えたら向かいの部屋に来てね。」
そう言うと、リラはぱたんとドアを閉めた。



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