窓から朝日が射し込んでいた。
「マルクってば。」
聞きなれた女の声がする。ベッドの上に起き上がり、腰に手を当てて自分の顔を見ている相手をぼんやり認識する。
「リラ、俺は寝起きが悪い。」
頭を軽く振りながらマルクは呟いた。
「嘘!危ない時にパッと起きられるんだから、普段だって出来るはずよ。」
「なら、休めるうちに休んだ方がいい。」
「もう!何でもいいから起きてっ!私の部屋に朝食は運んでもらったから。冷めちゃうでしょ?」
それだけ言うと、リラは部屋から出て行った。
マルクはゆっくりとした動作で立ち上がり、右側の前髪を掻き上げた。窓の外を見ると、少し賑やかになった通りが見えた。朝から商人は商売に精を出している。
鏡を見て、前髪をいつものように直すと、リラの部屋へ向かった。
「スープが冷めるわ。」
部屋に入ると食事の準備はすっかり整っている。
「そうだぞ。美味しく食べなきゃな。」
フランが笑いながら言った。
「…あぁ。…?」
そして、ふとテーブルに違和感を感じた直後…
「お水貰ってきましたよ。」
背後のドアが開き、聞きなれない声がした。
「…誰だ?」
「あ、おはようございます。ユーロです。」
にこやかに挨拶され、やや困惑するマルク。
他の二人を見ると、明らかに視線が泳いでいる仲間が一人いた。
「…お前か?」
「…へっ?い、いやあ、色々あってさ…。」
明後日の方角を見るフラン。
マルクは小さくため息をついた。
「お前…昔から道端に動物が落ちてるとよく拾ってたよな。」
いつもとあまり変わらない、淡々と、淡々とした口調。
(怒ってる…!)
直感的にそう感じ、フランは笑顔を引きつらせた。
「…この娘も道端で拾ったのか?それとも…。」
ユーロからは見えないが、フランに送られる鋭い視線。
右目でしか睨まれていないのに、普通の人に睨まれるより何倍も恐い。
「いや、別に盗んだわけじゃないよ…ユーロは…誰のものでもないんだし?」
「ほう…。」
声が少しだけ低くなった…ような気がした。
背中が嫌な汗で濡れる。
「あの…私、フランさんに助けてもらったんです。」
ユーロの声に、マルクが反応する。
「私、捕まっちゃってて…フランさんにここまで連れて来てもらったんです。」
「…そうか。すまなかったな。」
「いえ…。」
どうして頭を下げられたのかわからず、ユーロは戸惑った。
「はい、立ち話はそこまで。早く食べましょ?」
リラがユーロを座らせ、マルクにも視線を送った。
「で、いくら使ったの。」
カップに水を注ぎながらリラがフランを見た。
「…。」
「へ?」
ぼそぼそと喋ったのでよく聞こえなかったらしい。
「…タダ…。」
ぽそりとフランが呟いた。
「お前ってやつは…」
マルクが呆れ気味に呟く。
「いや、でも、一人旅の女の子を捕まえて売るような連中に払うこともないと思って…」
「それはそうかもしれんが、買い手はどうなんだ。」
「…いたみたいですけど…。」
暗い顔になるユーロ。
「…どう見ても完全に盗みだな。」
額に手をやりながらマルクが唸った。
「追いかけられたら厄介ねぇ。」
リラも顔をしかめた。
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