「へぇ。」
青年は興味深そうに頷くと、とても不思議そうな顔をする。
「俺に、助けてって言わないのか?」
「…泣き叫んで命乞いなんか、しない。」
震えた声でそう言うと、唇を噛む少女。

鳴きたいだけ鳴けばいい。お前がわめいたところで鳥が鳴いてるようなもんだ。

嘲笑う、商人の声。

「面白いな。初めて見た、こんな事言う奴。」
青年は笑った。
「いいや。恩なんか着せないから、一緒に来ないか?」
「え?」
「お前は自分の人生がここで決まるのはイヤ。俺はこんな珍しい女の子とここで別れるのが惜しい。
どうだ?俺がその縄を切ったら二つの問題が解決する。」
「一緒に…」
少女は迷った。信じてもいいのだろうか?また別の商人に売られるかもしれない。
でも…でも、このままここにいるよりは道が開けるはずだ。
「…つれてって。」
「よし。」
青年は嬉しそうに頷くと、腰に提げていたダガーを引き抜いた。
「縄、切るぞ。」
そう言うと同時にひょいと飛び上がった。
「え?」
ドサッ…と石畳に少女が倒れる。
「いたっ…」
「悪い、大丈夫だったか?」
軽い音を立てて着地した青年はすまなさそうな顔をした。
「…うん。」
痛くて涙が出掛かったが、少女は我慢して頷く。
「ちょっと足、見せてもらっていいか?」
慌ててしゃがみ込んだ青年は、少女の顔を見た。そして少女が頷くのを確認して、白いワンピースの裾を少し捲る。
「あちゃ…結構吊るされてたな?…ごめんな。」
そう言いながら、少女をひょいと抱えた。
「っ…?!」
「こんなんじゃ歩けないだろう?」
初対面の人間から子供のように扱われるのは何だか面白くはないが、この青年の言うことはいちいち正しい。
「…ありがとう。」
俯き気味で少女が礼を言うと、青年はあたふたと話し始めた。
「べ…別に。それより、俺はフランっていうんだ。名前は?」
「ユーロ…。よろしく。」
「ユーロか。ま、とにかく今は急ごう。誰かに見られたらまずい。」
いい終わるやいなや、青年は走り出した。
「わっ…」
落ちそうになったユーロは慌ててフランの服にしがみつく。
そして胸の内で呟いた。
一体なにをしているんだろう、私は…と。





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