(あ、いた!)
職員室から出るなり
「…セーフ…。」
と呟いてウェーブのかかった長い髪を掻き上げた女子生徒がいる。
スカーフが緑だから二年生だ。
「あの、コレ。」
ユーロは彼女に走り寄る。
「へ?あぁ、ありがとう。」
一瞬キョトンとした後、すぐにニッコリと笑顔になる。
綺麗な人だと思った。
「あなた、一年よね?名前は?」
「ユーロです。」
「そう。私はリラって言うの。」
「おい。」
職員室から、背の高い男子生徒が出てきた。さっきの人だろう。
「この人はマルクよ。」
「こ、こんにちは。」
先輩に挟まれて少し緊張気味だ。
「…。」
黙って頷くマルク。
「あ、気にしないで。ちょっと無愛想なだけだから。」
マルクの腕をパシパシと叩きながらリラが笑う。
「ところであなた…結構可愛いわね。部活とか入ってる?」
「いえ、先日転校してきたばかりなので、まだ…」
「本当!?ね、うちの部活においでよ!仮入部大歓迎だから、ねっ?」
キラキラした目がユーロの顔を覗き込む。
「あの、でも運動は苦手で…」
「心配無いわ。文化部だから。ね?おいでよ。」
「はぁ…じゃあちょっとだけ。」
気圧された状態でユーロはリラに引っ張られて行った。
「ちょっと待ってね。」
校庭の隅の倉庫の前でリラは立ち止まる。
「ここが活動場所なの。たぶん散らかってるから片付けて来るわ。」
そう言い残すと扉を明けて入って行く。
「ちょっと!部員勧誘して来たんだから片付けてよ!あ!それは!…もー!」
「待て!それは動かしちゃ…わぁぁっ!」
言い合う声と一緒にドタンバタンと凄い音がする。
ユーロは何だか不安になってきた。
「あの…」
「何だ。」
「ここ、何部なんですか?」
マルクは少し考えた後、「化学部だ…一応。」と言った。
一応って一体何なんだろうか…。
「化学部…って何をするんですか?」
「ん…色々だ。軽いものなら試験管でアイスキャンディーを作ったりする。」
ちょっと楽しそうかもしれない。
「じゃあ、重いものもあるんですか?」
「重いもの……そうだな、薬草で薬を調合するくらいか。」
「面白そうですね。」
「あぁ。割とな。」
と、そこに…
「お待たせ♪」
リラが扉を開けた。
「あんまり片付いてないんだけどね…入って。」
中に入ってみると意外に広い。
壁際の棚には実験器具らしきものが所狭しと並べてあった。
「わぁ…。」
珍しい物が沢山ある。
「そうそう、部員を紹介するわ。」
リラが指した方を見ると、男の子が二人いた。
「金髪のロン毛がフラン。部長よ。」
「よッス。」
ビーカーを片手にフランが振り向く。
「初めまして。」
「おう、ゆっくり見てってくれよな。」
ユーロに笑い掛けると、また作業を開始した。
「で、あっちの茶髪がエーレ。あなたと同じ一年生。」
「よろしく、ユーロさん。」
大人しそうな男子生徒だ。
「よろしく。」
「あとは先輩が一人いるんだけど…今日はいないみたいね。部員はそれで全部なの。少人数でアットホームよ。」
「あの…活動内容は…」
おそるおそる聞くと、リラは首を捻った。
「一応…理科の実験。活動日は毎日。気が向いたら来いって感じ。
意欲が主に食欲に向いてるからおやつを作りに来てるようなものかも。」
「えっと…今日は何を?」
「今日は水と油の実験。」
リラよりも先にフランが答えた。
「水と油?」
「そう。というわけで油と味付きの水を作ってる。」
「はぁ…」
「エーレが園芸部から野菜貰って来たからさ、食べてきなよ。」
よく意味が解らないのでリラを見る。
「要するにドレッシングを作ってるからサラダにするけど食べるか?って訊いてるの。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
「そうこなきゃな。エーレ、皿追加。」
「はい。」
…変な部活。それがこの部活の第一印象だった。