少しすると、先ほどの侍女がお茶の用意を持ってやってきた。
ゆったりとした動作でポットから湯を注ぎ、ミルクと砂糖を混ぜて茶を煎れる。
カップに少し注いでくるりと回し、中身を傍らの小さな器に移して口に含む。
毒ではないと証明するための慣例だ。
「どうぞ。」
勧められるままにカップをとり、ちらりとフィンクを見ると頷きが返ってきた。
神の祝福を受けている主教は、ちょっとやそっとの毒では死なないが…苦しいものは苦しい。
一口含むと甘さがふわりと広がり、すぐに消えた。
「美味いな。」
目を細めると、恥ずかしそうに侍女が答えた。
「あの、主教様は甘いものがあまりお好きでないと聞いておりましたので、砂糖を少なくして、ミルクに花の蜜を少し加えました。」
「ほう、それは嬉しいな。ところで、名は何と?」
「クウォータと申します。」
俯く姿に出来るだけ優しく声を掛ける。
「クウォータ、そなたは気が利くな。よければ私付にならないか?」
「そ…そのように光栄な…。」
さらに俯く顔を見て
「…嫌か?」
と残念そうに眉をひそめると、クウォータはぶんぶんと首を振った。結わえた赤色の髪がぱたぱたと動く。
「滅相もございません!」
「では来てくれるのだな?」
「は、はい!」
「それは良かった。」
笑いかけると
「あの!お代わりをお持ちしましょうか!?」
気まずくなったのか、いやに明るく、そしていかにも早く部屋から出たそうに訊いて来た。
ここは出してやるのが人情だろう。
「あぁ、頼む。」
「少々お待ち下さい。」
クウォータが足早に出ていくと、待っていたようにフィンクが半眼で呟いた。
「…タラシ…。」
「うるさい。茶が美味しかったのは本当だし、あの娘を俺付きにすれば口煩い今の世話係をここの担当に…したらいかんな。」
「口煩いのは主が奇天烈なことばっかりするからじゃないの?」
疑わしそうな視線。
「いいや、先日は羽ペンでダーツをしておただけなのに怒られた。」
「怒るに決まってるじゃない!使い方が根本的に違うわよっ。」
「…煮詰まってたんだ。大体な、結構難しいんだぞ?羽ペンってやつはふわふわしてて上手く飛ばない。」
「…もう、いいわ…。」
何故かフィンクが頭を抱えた。
と、そこに…
「お、来たな。」
微かな足音。
「お待たせいたしました。」
扉が開き、クウォータが入ってきた。
カップを片手に、この館の状況を訊く。
今のところ、ここには16人の子供と5人の世話係がいるらしい。交代で4人ずつの面倒を見ているのだとか。
一応、生活態度も見るので世話は最低限にしかしないことになっている。
「わかった。では、会いに行こう。」
席を立つと、
「ご案内致します。」
クウォータが立ち上がった。
「いや、いい。私はここに住んでいたこともあるし、そなたの休みを奪うのも悪いからな。私よりも子供達を頼む。」
「かしこまりました。」
クウォータはペコリと頭を下げた。





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