2.赤い花
移動方陣で屋敷へ戻り、普通の神官服に着替えてからフィンクを呼んだ。
「お呼びですか、主。」
「子供達がいるのは精霊殿だったな?」
虎の精霊はコクリと頷き、背を向けた。
「どうせ乗せろって言うんでしょ?」
ものわかりが良くて助かる。移動方陣は、自分の目で見える範囲か、印をつけておいた場所にしか行けない。
精霊殿なんて久しく行ってないし、印も無いし、歩くには遠いし。
「ご名答。さすが我が精霊。」
背中に跨ると、フィンクはため息をついて走りだした。
「精霊殿ってあそこでしょ?この前まで主の部屋があったとこ。」
「おい、この前って、10年も前だぞ。」
「あら?」
これだから時間の感覚が無い奴等は…。
まぁ、あそこには俺の色々な思い出が詰まってる。嬉しかったことも、辛かったことも。
「どんな子が選ばれるのか楽しみだわ。主は面食いだから。」
「お前…いくら俺でも国の将来を顔で選んだりするわけないだろ。」
「そぉ?」
クスクス笑うフィンク。
「嫌な奴だな。」
「犬は飼い主に似るのよ。」
「お前って猫だろうが。」
そんなやりとりをしていると、目的地にたどり着いた。
「あぁ、あと、もう一つ。」
「何なりと。」
フィンクは大仰に腰を折る。
「俺が一人で行くのも妙だから一緒に来てくれ。」
「はーい。」
まるで緊張感の無い返事だった。
「それから、人前では喋るなよ?いつもどうりに黙っててくれ。」
「…どうして?屋敷の中なのに。」
「お前が喋ると俺の威厳が損なわれる。」
「失礼な話。」
「本当の話だ。」
フィンクは口を尖らせたが、黙って従った。
扉の横にある鐘を鳴らすと、すぐに侍女が現れる。
「どちら様でしょうか。」
首を傾げる侍女にニコリと微笑んで主教の証を見せる。
「私だ。」
「レ、レアル様…。」
「子供達の顔が見たくてな。忍んで来てしまった。」
「そ…そうでございますか。あの、こちらへ…。」
頬を染めた侍女が、そそくさと俺を中へ招きいれた。
自分で言うのも何だが、俺は中々の美男子だ。宮廷楽士の言葉を借りれば“紫眼の黒豹”。
要するに色が黒い…じゃなくて、浅黒い肌に赤紫色の目。髪は長いが目と同じ色だ。額には菱形の紋様が書いてある。
「…。」
フィンクが何か言いたそうにこちらを見ていたが、気にはしない。
「こちらへ。」
客間に通され、俺は長椅子に座る。フィンクは立ったままだ。まぁ、座ろうと思っても椅子には座れないが。
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