あれから一週間、子供達が来た。俺は何をどうしたらいいのかわからなくて、初めの挨拶をしてから2日間ほどブラブラしている。
子供達がいるのは精霊殿という館で、俺が主教になる前に暮らしていたところだ。
ナイラの件は、フィンクに頼んだ。いきなり俺が行っても無駄だろうし。…とか思ったのに、フィンクはあっさり諦めた。
異様にカンが鋭いらしく、姿を消した状態なのに絶対にフィンクの方を向かないらしい。
「もう、いい。俺が行く。」
「だったら最初からそうしてよ!」
プンプン怒るフィンクをなだめ、館に向かう時間と段取りを、今朝決めた。
「主って計画性無いわよね。」
…耳の痛いお話で。





「子供は元気ですね。」
にこにこしているのはシオン。とにかく子供が好きだ。
「皆さん可愛らしくて。」
微笑み返したのはルナリア。
二人とも、ハイエルフだ。
午後の執務室は日が刺し込んで若干暑い。まぁ、自分が窓を背にして机に向かっているのにも問題があるんだろうが。
いくら神殿の周囲を森が囲んでいても、木漏れ日は俺の後頭部に直撃だ。
「…楽しみだな。」
気乗りしない声で言うと、二人は顔を見合わせた。
「ご気分でも悪いのですか?」
ルナリアが顔色を伺ってくる。
「いや、少し暑いのと、そのせいで眠いだけだ。」
背中がぼかっと暑い。
でも、気乗りしないのはもちろん、そのせいだけではなくて。
本当は、こんな行事は見たくないというのが本音だ。
次期当主となるために子供達が競う…それはいい。ただ、その背景を考えると憂鬱になる。
上っ面は笑いながら、腹の中では反対のことを考えている親類。自分の息のかかった子供を俺に選ばせようと蹴落としあう姿は醜い。連中の親権はなくなるというのに…。
辛いめを見るのは子供達なのだ。どれだけの人数が集まろうが選ばれるのは一人だけ。いちいち感傷に浸っていてはキリがない。
だが…相手は子供なのだ。未来の芽は摘みたくない。
「主教も遂に父親ですね。」
何だかシオンは嬉しそうだ。
「お前は子供が好きだな。」
「主教はお嫌いですか?」
「私は…どうなのだろうな。」
よく、わからない。嫌いではない。でも、好きというほどでもない。
「可愛らしいではありませんか。」
ルナリアがこちらを向く。
「…お前達、早く結婚したらいいのに。」
俺の何気ない言葉に、ルナリアは耳まで真っ赤になった。
「と、とんでもない…です。」
その言葉に、シオンが少し傷ついた顔をしつつ、やはり
「そうですよ。」
と言う。二人共素直ではない。
「シオン…」
俺は少々大げさにため息をつく。
「少しは素直になれ。本当にその気がないなら、俺がもらうぞ。」
紙束を揃えていたルナリアの耳がピクリと動く。
「それは…」
眼鏡を押し上げながらシオンは俯いた。
「…。」
こっそりとシオンの様子を伺っているルナリアの姿が面白い。
「ま、いいか。」
半端に話を切って立ち上がる。
「未来の息子か娘の顔でも見てくるとしようか。」
『主教!』
二人が同時に非難の声を上げる。
「気にするな。大体、私は結婚出来んだろうが。」
『…。』
「じゃ、行ってくる。」
背中越しに手を振り、執務室を後にした。





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