一人で考えていてもどうしようもない。煮詰まるだけなので話し相手を呼ぶことにした。
いつものように、人指し指で紋様を描く。スペルを唱えながら描くと、軌跡が空中に残るのだ。
「お呼びですか?主。」
「暇か?」
現れた奴に尋ねると、物を申したいような目で見られた。
「呼ばれたら必ず出て来るのが精霊なの。」
文句を言いながら、俺の精霊は腰に手を当てた。
「今日は何の用?」
「うん…気になる餓鬼がいてな。」
「女の子?」
「…わからん。」
そういえば、どっちだか聞いていない。
「そう。まぁ、どっちでもいいわ。で?その子をどうするの?」
「いや…どうするもこうするも…」
「じゃあ何で呼んだのよ。」
「ん…そうだな。たまには虎と過ごす夜もいい。散歩に行きたいんだ。」
「……乗れば。」
やや不機嫌な顔で背中を向けたのは俺が使役してるフィンクって名前の精霊。
上半身は人間の女、下半身は虎の姿を持つ白虎の精霊だ。使役って言っても、実際は尻に敷かれている気がしなくもないんだが…。
精霊っていうのは魔術師でいう使い魔のようなもんだ。ある程度の法力が無いと従ってくれないから、大抵は上級神官が持っている。
誰かから譲ってもらうか、自分で捕まえるかして精霊と契約を結ぶ。そうすると、自分の相棒になってくれるんだ。
「じゃ、出発。いつもの散歩道な。」
「しっかりつかまってね。」
フィンクはバルコニーから庭に飛び降り、軽やかに着地した。さすが猫の親戚というべきか、ほとんど音がしない。
俺は、自分で精霊を捕まえに行った。先代は譲ってくれると言ったんだが、どうしても自分で捕まえたかったからな。
「ねぇ。」
「ん?」
「で、そのナイラっていう子をどうするの?」
「…さぁ?」
俺自身、どうすればいいのか解らない。
「さぁって何よ。気になってるんでしょ?」
「あぁ。」
虎の背に跨ったまま、俺は考えた。
存在が消されかかった子供。だからといって、そんなに気になる要因は無いはずなのに。
「その子を選ぶの?」
「まさか。何も知らないんだぞ。」
「そうよね。楽しみだわ。貴方がどんな子を選ぶのか。」
「そうか?」
「えぇ。私は可愛い子がいいわね。」
「俺だって可愛い方がいいさ。そうだな…やっぱり将来が楽しみなのは女の子だ。美人は傍にいるだけで嬉しい。」
「不純ねー‥」
「いいや。美人は世界の宝だ。不純じゃあない。」
「…あ、そう。」
フィンクは呆れた声で返事をし、肩をすくめた。
俺は、こいつと散歩してる時間が一番好きかもしれない。誰を気にするでもなく、ゆったりと時間が過ぎていく。
「なぁ…」
「ん?」
「俺が親バカになったらどうする?」
「…妬くわね。」
「そうか。苛めるなよ。」
「…どうだか。」
「嫌な奴。」
「お陰様で。」
そんなやりとりをしていたら何だか眠くなってきた。
「眠い。」
「はいはい。すぐに戻るわ。放さないでね。」
フィンクはそう告げると走り出した。
でも軽く、走るっていうより跳んでる感じだ。
「おやすみなさい。」
あっという間に部屋に着き、俺を下ろしてフィンクは消えた。
目次へ・・・前へ・・・次へ