「なるほど。」
白い天井に目を向けてみる。
「そして私はナイラとやらに興味を持ち、目を向けるようになる…と。大方、そんなところだろう。」
「…。」
「お前のような事は皆が考える。能力では一番だと、己の推薦する者を過信する。だが実際はどうだ?能力など大した差ではない。
選り抜かれた者ばかりが集まるのだから。違うか?」
「…。」
やわらかな日の射す午後なのに、小さな身体は震えている。少しいじめ過ぎたか。
「あの方は、貴方様の目にすら触れないかもしれないのです。どうか、選考の場には…!」
「…。そのナイラとかいう子供は何者だ?」
「六年前、ハーフエルフと逃げた令嬢がいたのを覚えていらっしゃいますか?」
「…あぁ。」
微かに記憶にあった。レオネとメリックという二人が逃げたのだ。一時は騒動になったものだが、今は何の音沙汰もない。
「ナイラ様は、お二人の忘れ形見です。」
「…そうか。それは不幸だったな。」
「お二人は殺されたのです!」
「…。」
「このままではナイラ様まで殺されてしまいます!どうか、どうかお救い下さい!!私はどうなっても構いません!!」
頭を床に擦りつけて、必死に訴えてくる。
俺も、さすがに少しだけ心が動いた。
罪人ならともかく、純粋な訴えを完全に無視するのは少々辛い。
「……お前は計算高い。私の好奇心が旺盛なことを知っているな?私は一度気になったら自分の目で確かめたい人間なのだ。
…子供を推薦する事は禁止されているが、助命の嘆願なら罪にはならんからな。」
もちろん、その子供が命を狙われているという証拠もないわけだが。
「……。」
「名は?」
「は、はい、ラトと申します。」
「こちらへ。」
ラトが不安そうな顔をして少し近くへやってきた。
「もっとだ。」
「はい。」
机を回って手が届く距離まで近付いて来た。
「その顔はどうしたのだ。」
「…お二人が亡くなった時、傷が。」
「ほう…それは惜しかったな。」
俺が手を伸ばすと、ラトはびくりと身体をすくめた。
でも、手は止めない。ゆっくりと顔にかかった髪を払い退けた。
「傷が無かったら、将来は後宮にでも入れただろうに。」
頬に、一文字に刻まれた傷跡。
「!」
ラトはあとずさった。
「…何故…わかったので…。」
途中で自分の口を押さえたが、もう遅い。
「カマをかけただけだったんだが。」
「!」
「この程度で引っ掛かるような子供だとは。ナイラとやらの件は誰かの入れ知恵だな。」
「い、いいえ…。」
下を向いたまま、必死に首を振る。
「まぁいい。下がれ。」
「レアル様…」
「考えておこう。」
「あ、ありがとうございます!」
それこそ玩具のように頭を深く下げ、ラトと名乗った少女は部屋から出て行った。
「…。」
さて、どうしたものか。
レオネに子供がいたという話は耳にしていない。
隠されていたのだろうか?
「シオン!」
部屋の外にいるであろう補佐役に声を掛ける。
「はい。」
扉が開いて、眼鏡をかけたハイエルフが歩いてきた。
「ルナリアに伝えてくれ。」
用件を書いた小さな紙を渡すと、シオンは一つ礼をして部屋を出て行った。
休憩は終わりだ。今夜は忙しくなりそうだから。





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