翌日から、俺は候補の子供達と直接話す期間に入った。
俺が喋る端からシオンとルナリアが記録していく。
皆、利発な子だったが、特に感心したのはやはりドラクムとリディアの兄妹だ。
ほぼ全ての質問に対して完璧な答えが返って来る。
妹は心から兄を尊敬していて、自分が兄の目の前に出るなんてありえない…と思っているようなので、やはり選ぶならドラクムか。
ナイラは、夜のことが嘘のように黙りこくっていた。俯いたまま、必要最低限の言葉しか発しない。
まぁ、小さいなら小さいなりに色々あるだろう。
とにかく、喋り通しで疲れる一日だった。



夜も遅くなり、やっと寝室にたどり着く。
前の二日が睡眠不足だというのに…。寝台の上に転がり、見るともなく天蓋を見つめる。
ナイラは…どこにやればいいだろう?俺の力の及ぶ範囲はバルセロス一族だ。
でも、バルセロス家の人間は、大半がエルフに良い感情を持っていない。
そんな偏見の中に置いておくのは忍びない。どこか別の場所へ…

そうだ。たしか豊饒宮のレト主教が孤児院を持っていたはずだ。
彼が妻と一緒に面倒を見ている孤児院なら安心だろう。二人共おおらかで優しいし、のびのび暮らせるだろう。
カタカタカタ…
窓が鳴る。
こんな時間に尋ねて来る奴は一人しかいないな。
「今日は何だ。」
カーテンを引くと、今回はバーツだけだった。
「いや…礼が言いたくてな。」
「礼?」
「あいつ、少しだけ明るくなった気がするんだ。お前のお陰だろうと思ってな。」
「別に何もしちゃいないさ。あのちびが昔話をしてっただけだ。」
「昔話?したのか?…お前に?」
「悪いか?」
心底意外そうな顔をされるとなかなか傷つく。
「いや、別に。あいつ、とんでもなく人間不信だったのに…。お前、人間か?」
疑わしそうな目。
「失礼なこと言うな。」
「まぁ、いい。」
「あいつに言ってやったんだ。もう、今までいた家には帰らなくていいって。」
「…。」
「代わりに、もっとのびのび暮らせるところを用意しようと思う。」
「…そうか。」
バーツは改めて俺の顔を見た。
「感謝する。」
「まぁいい。今夜は眠いから帰ってくれ。」
「おい!人が真面目に礼を言ってんのに…」
バタン。
俺は窓を閉めた。
振り返らずに寝台に寝転がった。
外でバーツが文句を言っていたが、すぐに静かになった。
「お前みたいな変な人間に会えて良かった。もう会うことはないと思うが…。じゃあな。」
それだけ聞こえて気配が消える。
…今更、礼とか言われると変な気分になる…。



そんなこんなで色々しているうちに子供達は帰っていった。
あとは誰を迎えたかという報告書と、精霊殿の人事に忙殺されそうな日々。





目次へ・・・前へ・・・次へ