「…疲れたわ。」
大量の客をさばき切った後、リラはげんなりと呟いた。
「そもそも何で手伝う羽目になったのかしら。」
「ははは。すまんねぇ。」
店主が笑いながら立ち上がる。
「冷えたジュースがある。ちょっと待ってな。」
そう言って奥へ引っ込んだ。
「…♪」
ユーロは髪飾りに手をやってご満悦だ。
「よく似合うじゃない。」
「ホント!?」
リラはユーロとアクセサリー談議に花を咲かせる。
それを横目に見つつ、マルクは店じまいの札を立てた。そろそろ祭のフィナーレが王の神殿で行われるため、通りの人通りも落ち着いてきた。
「そろそろ帰る?」
冷えたジュースで一息つきながら、リラがマルクを見る。
「…そうだな。」
「あの!」
「ん?」
「フィナーレ、見たい…な…。」
ユーロの遠慮がちな言葉に店主が反応した。
「そうだな。生きてるうちに何度もない祭だもんな。物見高い。」
都の出来事なので直接は見られないが、この街の乙女宮の神殿で念写師がフィナーレの様子を見せてくれるのだ。
「でも、今から行ってもいい席が無いと思うわよ…見られるかしら?」
「あ…そっか…。」
しょぼんとするユーロ。
「大丈夫だ。」
新しい声が割り込む。
『フラン!』
店の前には仁王立ちするフランの姿があった。
「いい場所見つけた。」
「へぇ!凄いじゃない!行きましょうよ♪」
「リラ…その前にお前は俺に謝れ。」
「なんで?」
「なんでじゃねぇ!お前がいなくなってからどれだけのブーイングに耐えたと思ってるんだ!」
フランが青筋を浮かべる。
「リラ、どうしたの?」
ユーロの無邪気な目がリラの心をチクリと刺す。
「う、うーん…。」
視線が泳ぐリラ。
「いつもの話だろう。」
後ろからマルクが呟いた。
「そうだよ。でも今日のはいつもより酷かった。」


まぁ、リラとフランの間にはよくある話だった。
フランが歌っている最中にリラが飛び入りで踊りに入った。そして大盛況。突然離脱するリラ。客からは不平の嵐だったそうだ。
「フォローがどれだけ大変だったか!」
殺気立つフランにユーロが気の毒そうな視線を送る。
「まぁ、切り抜けられたんでしょ?大丈夫よ。」
リラはうそぶいて話題を変えた。
「それより、いい場所ってどこよ?」
「…ついて来いよ。」
呆れ顔で背を向けるフランに、リラが呼び掛けた。
「ちょっと待って。ユーロ?」
ユーロは髪飾りを外し、店主に返していた。
「これ、ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
店主が受け取る直前、フランはユーロの指が髪飾りを撫でたのを見逃さなかった。
「それ…買ったんじゃないのか?」
「あ、うん。バレッタだけマルクさんにとってもらったの。コレはセットだったけど、今は別売り。」
「ふーん…」
フランは飾りを見つめ、
「それ、いくら?」
ときいた。
「これかい?3フィーロだよ。」
「じゃあ、くれ。」
「え!?」
リラが目を丸くする。
「買うの?」
「まぁ…今日は儲かったからな。それに、この前の礼もしてない。」
エン公爵邸の暗殺者達…たぶんユーロに助けられた。確証はないが、そうとしか考えられない。
フラン達にはどうすることも出来なかったんだから。あの状況でいきなり第三者が介入したとは考えにくい。
「えぇっ?」
ユーロが素っ頓狂な声を上げた。
「いいからいいから。」
リラがユーロの背中を押して店の外に出て行く。
「今度、私からも何かプレゼントするわ。」
「???」
顔中に疑問符を浮かべるユーロと共に、リラは店を後にした。
「…なんで?」
まだ疑問を口にするので、リラはユーロの頭に手を置いた。
「誰かに何かをあげたいって急に思うこと、ない?」
「…たまに。」
「それと同じことよ。」
「そうかな。」
「そうよ。」
何だか煙に巻かれた気がするが気にしないことにした。折角の厚意なのだから。
「待たせた!」
フランが勢いよく出て来た。
「あっちだぜ。」
そう言って小走りに進んでいく。
「ちょっと待ちなさいよ!」
リラ達は慌ただしく後を追う。



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