「もう終わりか。」
「んなわきゃねぇだろっ!」
二人は打ち合う。
「お前のか?あの出来損ないは。」
「だったらどうする。」
「俺が勝ったら玩具にする。」
「それは困る。」
ユーロが十分に離れたのを確認し、マルクは杖を構え直した。
「仲間が大切にしているからな。」

刹那

マルクは今まで男が立っていた場所にいた。
「…しょ…勝負あり!」
一拍遅れて審判が旗を挙げた。

わあぁぁぁぁぁ

会場が歓声に包まれる。
「審判。」
マルクが歩み寄る。
「神官を呼んだ方がいい。解呪を。」
「解呪?」
訝しげな顔で陣の外で伸びている男を見る。
「妖精か何かがついている。」
「わ、わかりました。それと、大変申し上げにくいのですが…」
「わかっている。」
それだけ言うと退場口へ向かった。
「あ、あの!」
ユーロは審判に歩み寄る。
「大丈夫ですよ。呪いが証明されればノーゲームですから別の相手と…」
「いえ、そうではないです。申し訳ありませんが棄権させていただきます。すみません!」
あたふたと頭を下げ、マルクを追う。



マルクは無言で歩いている。後ろからついて歩きながら、ユーロは何と声を掛けるべきか思案していた。怒っている、と思う。自分が逆の立場だったら絶対に頭にくる。
「あの!」
「?」
なんだついてきたのか、という顔で振り向くマルク。
「ごめんなさい!」
思ったよりも声が大きく、行き交う人がちらちらと見る。
「…。」
マルクは呆れ顔でそれを見つめ、
「いつまでも頭を下げるな。」
と言ってまた歩き出す。
ユーロはまたそれを追って小走りになり、すれ違う若者と肩をぶつけた。
「すみません。」
謝ったが、それで許してくれる相手ではなかった。大体、祭の若者達は妙に気分が盛り上がっているものだ。
「おいおい、可愛いじゃん?」
その言葉に周りの仲間が野次を飛ばす。
「そんなに急いでどこ行くの?」
「あの、はぐれそうなんです!失礼します!」
掴まれた手を振りほどこうとしてもなかなか上手くいかない。
「なぁ」
ぐいっと引き寄せられたと思ったら、また肩を捕まえられて反対に引き寄せられた。
「俺の連れだが。」
戻ってきたマルクが睨みを効かせる。
「…。」
いつの間にか大きな手が腰にまわっている…アレだ、よく恋人にやる抱き寄せ方。
ユーロが思考停止を起こしている間に、事件は片付いていた。
「まったく…今度からは気をつけろ。…きいてるか?」
「はいっ!」
びくりと肩を震わせて我に返った。
「色々とありがとう。」
「…座るか。」
そう呟いて水呑場の噴水の縁に二人は腰掛けた。
「本当にありがとう。」
「気にするな。俺がいたから助けた、それだけだ。しかし…何のために。」
「あー‥あはは。」
ユーロは曖昧に笑って俯いた。
「…欲しいものがあって。買ったら高いから、とれないかな、と思って。」
それから、的当ての店からの経緯を説明した。
「…なるほど。しかし、あの動きは…」
「あれは…他人に禁止としか書いてなかったから、自分にかけただけ。狡いよね。」
「別に狡くない。勝負なんだ。勝ちに行ったんだろう。」
「…うん。」
「細かいことを気にするな。」
「でも結局負けちゃった…」
悔しそうな横顔。
「何が1番悔しい?」
「…半分…。確かに、1+1を2で割ったら1にしかならないから半分ずつだけど…。」
こんな顔を、見たことがあった。
数年前のことなのに、とても遠い記憶のような気がする。その時は何も言えなかった。どうして人間は血にこだわるのだろう?烙印は、産まれた瞬間から焼きついているものではないはずなのに。
「…寒いとき、飲みたいのは湯か?それとも温かいレモネードか?」
「?…レモネード、かな。」
「だったらそれでいい。混じり気の無いものばかりが良いとは限らない。」
そう言うと、マルクは肩を竦めて立ち上がった。
「その的当てはどの店だ。」
「え?」
「案内しろ。お前の好きにさせておいたら明日までに過労死する。」
「ありがとう!」
パッと顔が明るくなる。
「とれる保障は無いぞ…フランかリラが探せたら楽なんだがな。」
「ううん。」
笑顔で首を振り、ユーロは歩き出した。何よりマルクの気持ちが嬉しかった。




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