さて、そしてユーロは困っていた。自由行動ということらしいが…何をして良いかわからない。
フランは稼ぎ時だと言って広場へ。リラはサーカスの友人を訪ねるとか何とか。
マルクは気付いたらいなかった。
で、何故自分が一人でフラフラしているかというと、今日が祝日だからだ。
祝日に罪を犯した者は神を冒涜したのと同罪で、地獄の最下層に落ちる…らしい。
だから大丈夫。今日は狙われない。しかし…特にすることも思い付かない。
ぷらぷらと歩いていると、アクセサリーの店が出している出店を見つけた。
綺麗なものが沢山並んでいる。
「…。」
思わず覗き込んで見ていた。
「いらっしゃい。」
「!」
いきなり声が聞こえたので驚いた。
「それは売り物じゃなくて景品だよ。」
それは、恰幅の良いおじさんだった。商人特有の笑顔も感じが良くて、ちょっと高級な店にいそうな感じの。
「何の景品なんですか?」
「ダーツだよ。ほら。」
指された先には的。羽根は…結構遠い。
「おいくらですか?」
「5本で1フィーロ。」
(高っ…。)
ユーロは思わず俯いた。単純計算してよその出店の5倍だ。この店の前だけ人がいないのも頷ける。
「いや、高くはないよ?」
ユーロの心を見透かしたように店主は言った。
「悪いものは置いてないからね。」
「あの…そこの髪留めは…?」
そう、髪留めが壊れそうなので新しいのが欲しいのだ。
「あぁ、これかい?」
そう言って渡された髪留めはとても綺麗だった。華の透かし彫りをあしらった銀細工。所々に金色が入っていて美しい。はめ込まれた石は綺麗な碧…
「金とプラチナでメッキがしてある。石は瑠璃じゃなくて碧石だ。綺麗だろう?」
「はい。とっても。」
それはもう綺麗だった。それにとても高価だろう。
これが1フィーロなら絶対に安い。安すぎる。だが、自分の腕では無理なのも事実。
1フィーロあったら今しているのと同じようなものが買える。
「お嬢さんはとても綺麗な髪をしてる。よく似合うだろうな。」
「…。」
もう一度、的と手元の飾りを見比べる。
…得点制だ。1発当たればいいってもんじゃない。
「…無理です…。」
そう言って店主に返した。
「…1本、投げてみるかい?」
しょげた様子が気の毒だと思ったのか、店主は1本だけ羽根を渡してくれた。
「はい。」
ものは試し…
ユーロは的の正面に移動し、深く息を吸って羽根を投げた。




外れてはいないが端にしか当たっていない。
やっぱり無理のようだ。
「…ありがとうございました。」
「あぁ、そうだ。」
歩いていく後ろ姿に、店主は声を掛けた。
「他の店にも景品として色違いのを出してるから。それがとれたら交換してあげよう。」
「本当ですか!?」
くるりと振り向く。
「あぁ。」
「やってみます!」
にこやかに、ユーロは歩き出した。
「…。」
とはいっても問題は解決しない。自分に出来ることで、かつ、あの髪飾りがあること…。中々に厳しい条件だった。
「…?」
ふと、看板が目に入って足が止まる。
「……。」



マルクは人ごみが好きではない。狙われても素早く反応が出来ないから。
フランもリラも大袈裟だと笑うが、そうもいかない。あの頃とは姿が変わってはいるが、怨みを持たれる覚えは腐るほどある。いちいち覚えてはいないが。
「それを。」
喉が渇いたので、屋台でジュースを買う。
「どうぞ。」
素焼きのコップからひんやりと冷たさが伝わって来る。
その時、どこからか歓声が聞こえてきた。
「?」
そちらを向くと、売り子の娘がおずおずと口を開いた。
「…競技場の方ですね。」
「何をやっている?」
「トーナメント形式の腕試しです。賞品が豪華です。」
「ほう…。飛び入りはいいのか?」
マルクの目がキラリと光った。
「は、はい。大丈夫だったと思います。」
「そうか。ありがとう。」
売り子のおどおどした態度を見て、怖がらせたと思った。だから、少し声を柔らかくしてみた。フランのような甘い声にはならないが、やらないよりはマシだと思って。
コップを返して競技場の方へ向かった。後ろで売り子が赤面しているのを知らないまま。


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