「え…男?」
リラがもう一度ナイラの絵を見た。
「あ!彼って書いてある!!」
マルクは「よく読め」と呆れ顔で呟いた。
「そっかぁ…男の人だったんだ。」
ユーロも驚いた顔のまま呟く。
それにしても美人だった。版画でこれなら、実際に会ったときには眩しくて目すら合わせられないだろう。
「しかし、春祭と主教の就任式が重なるなんてもうないかもしれないわね。」
「そうだな。一生に一度も無いぜ。」
「演舞見たかった!今年はきっと特別だったわよ…!」
リラの悔しそうな声。
春祭は王家の祭るミーティアの祭だ。
一年で一番盛大な祭。その中で演舞がある。各神殿の楽士と巫女が集まり、都の中央広場で踊る。
踊り子として興味があるらしい。
フランは何度も見ていたのでリラほどの感動は無いが、やはり美しい舞台だとは思う。
「やっぱりリラは一緒に踊りたいのか?」
「…ま、踊りたくないって言ったら嘘になるわね。でも、私は元から本職の踊り子ではないわ。セトラの店では筋がいいとか言われたこともあったけど。」
「本職じゃなかったの?」
ユーロは驚いた。路銀稼ぎのためにリラが踊るところは何度か見たが、エルフの村の踊り子と遜色ないと思っていたのだ。
「そうよ。半年くらいやってただけ。」
「っへーえ…」
「ま、今は昔の話よ。」
少し素っ気なく話を区切り、リラは立ち上がった。
「それより、早く祭見物に行こう?まだ食べてるのんびり屋は誰?」
ユーロはぴくりと反応してから手元を見た。手に、あと二口くらいの食べかけ。紙袋に一切れ。
「これ、もう食べられないよう。」
「あー、やっぱ女の子には多かったかな…」
フランが頭を掻きながらチラリとリラを見る。
「な、何よ!食べ切ったら悪いわけ!?」
「別に。あ、無理に食べなくていいぜ。俺とマルクで半分にするから。」
そう言ってフランはサンドイッチを半分にちぎると、マルクに手渡した。
「早くしてよねー。」
「まぁまぁ、そんなに急かすなっ…て…。」
マルクの方を向いたフランの顔が固まる。
マルクは悠然とカップに口をつけていた。
「もう食ったのかよっ!?」
「早くしろと言われていたしな。」
ユーロは呆気にとられていた。フランの手からマルクに渡り、マルクが口に運ぶのも見ていた。バタバタした動きなんか一切無かったはずなのにこの素早さ。無駄が無いとはこのことだろう。
しかし、驚くポイントはそこじゃない。一口の大きさだ。あんなの絶対に一口では入らない。なのに入った。どういう仕組みなのだろう…あの口。
「ほら、フランも早く。」
リラは何事もなかったかのように急かし、マルクは当然のように立ち上がる。
二人は慌ててパンを食べ切って後を追った。
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