今度は段の上に大きな蕾が現れた。リンとルーブルはそれに合わせて跪く。
花が開き終わり、花びらが風で舞い上がって消えると、中からは若草色の衣を纏った青年が現れた。
ひときわ大きな歓声が上がる。
「…王様?」
ユーロがフランに目を向けた。
「あぁ。エーレ・ノルトライン・ラ・ヴェスタ。通称エーレ5世だよ。」
「大人しそうな人だね。」
控え目な笑顔を見ながらユーロは呟く。もっと偉そうなだと思っていた。
「あ、来るわよ。」
リラの声に反応し、また映像に集中する。
エーレの向かい側、といってもだいぶ離れた場所にメラメラと真紅の炎が上がった。
「…熱そう…。」
「ね。」
幻と解っていても炎はドキリとする。
その炎の中からナイラが姿を表した。
『……。』
会場が静まった。さっきまでのお祭り騒ぎが一転して厳かな儀式の雰囲気に変わる。
白いベールを被った新主教はしずしずとエーレの前まで進み、膝をつく。
二人だけが大きく映る。たぶん、念写師が注目しているのだろう。エーレはナイラのベールを外し、頭の上に手をかざした。
そしてナイラが王への忠誠を誓い、エーレはその手を取って立ち上がらせた。
ナイラが聴衆の方を向いた瞬間、会場が静まり、一拍おいて歓声が上がる。
それに応えて手を振り、少しして口の前で人差し指を立てた。
「…なんて綺麗な人…。」
ユーロは思わず溜息をつく。
「何食ったらあぁなるんだろうなぁ…」
フランはやや呆れて呟いた。女でなくて良かったという他ないだろう。国が傾く。
舞台ではナイラが歌いはじめた。意味がわからない言葉だが、綺麗な声だった。
高くもなく低くもなく…やさしく語りかけるような声。
「何て言ってるのかしら?古代語と似てるけど、違う…」
リラが首を捻る。
「…目、閉じたらわかるよ。情景が浮かんでくる。」
「……。」
会場は静まり返り、ナイラの声だけが響いていた。
やがてそれは盛り上がり、そして静かに終わりを迎えた。
余韻に浸る少しの静寂と、割れんばかりの喝采。
届かないとわかっていても、思わず拍手をしてしまう。



「ありがとう。凄く良かった!」
帰り道、ユーロは跳ねるように歩いていた。
「そうね。いいもの見たわ。今回ばかりはフランにお礼を言わなきゃ。」
「おう、感謝しろ。」
フランが鼻を鳴らす。
「ありがとうフラン。」
ユーロの笑顔が眩しい。
そんなことに気をとられていたから、リラの話もよく聞かずに相槌を打ってしまった。
「うわっ!早く行きましょユーロ。大変だわ!」
リラがユーロの手を引いて走っていく。
「え!?俺、いま何て言った?」
「風呂に一緒に入ると言ったな。」
「は!?え!?全然聞いてなかった!!」
「…不注意だ。」
リラは狙ってやったに違いない。
「おい、誤解だって!逃げるな!!」
話をきけと言いながら追い掛けるフランを、マルクはやはり呆れ顔で見送った。



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