舞台に王都の神殿の様子が映し出された。
フィナーレは新しいレアル主教が国王に忠誠を誓う儀式だ。会場は王都にある女神ミーティアの神殿。要するに、王城だ。
深い緑の絨毯の先に一段高い所がある。たぶんそこに国王が立つのだろう。
「念写師の皆さん頑張ってるわねー。」
リラは思わず呟いた。念写師というのは目の前にある物の姿をそのまま紙に写す技師のことだ。もちろん描き写すのではなく、法力を使って紙に浮かび上がらせる。固定の処置を使えば現代でいう写真のようなものになる。紙ですら相当な修業が必要なのに今日は立体の映像…しかもこれだけの大きさとなれば一人ではないはずだ。
王都の念写師がこの街にイメージを送り、それをこの街の念写師が拡大しているだろう。
「凄い…こんなことってあるんだね!」
ユーロは大興奮だ。
「ユーロは初めて?」
「うん!」
「そっか。私は2回目くらいかなぁ。」
リラの記憶にある限り、前国王の崩御の際の葬儀と、今の国王の戴冠式と、勝利宮の主教の就任式。この三回はこんな映像が流されたはずだ。国の重要な儀式ではこうやって映像が流れる。ただ、崩御と戴冠式は田舎の村にいたため見ることが出来なかった。
歓声が沸き立ち、ユーロは少し身体を乗り出す。
一段高くなっているところの左に大きな水晶が現れた。
「わぁ…何あれ!?」
「豊饒宮のリン主教だよ。」
隣にいるフランが答えた。
「こういう特別な儀式では神殿ごとに登場方法に決まりがあるんだ。」
「へぇ…」
「豊饒宮は大地の神だろ?だから、あぁなんだよ。」
その言葉が聞こえてすぐに水晶が砕け、欠片が光を放ちながら舞い、そして消えた。中からは山吹色を基調とした衣を纏った女性が現れた。長い黄金色の髪を優雅に揺らし、観客に向かって微笑む。
「あの水晶、全部幻なの?」
「…あぁ。」
「凄いね!」
はしゃぐユーロを横目に
「むぅ…」
とリラが呻く。
それに気付いたマルクが怪訝そうな顔をした。
「あれで40半ばとか信じられない…。主教だけに神のご加護かしら…」
「…まぁ、遠目だし映像だからな。」
「そうね…。」
次は段の右側から噴水のように水が吹き出した。それはあっという間に球体のように丸く床に溜まる。それが一気に流れ出たとき、中から銀の髪の男性が現れた。
堂々とした体躯が青い法衣に包まれている。
「ルーブル主教か…」
珍しくマルクが声を発した。
「興味あんのか?」
フランが顔を向ける。
「あぁ、もう昔の話だが…一度だけ言葉を交わしたことがある。」
「何で!?」
リラが羨ましそうな声を上げた。
ユーロは映像をただただ食い入るように見ている。
「終戦の時だった。当時の勝利宮の主教は生き残った兵士全員に褒美をとらせたんだ。正規の兵だけでなく俺のような傭兵にまでな。」
「あ、そこは知ってるわよ。マルクは表彰されたんでしょ?」
「そうだな。仲間も何人か一緒に。」
その表彰式の時にルーブルが後で労いの言葉をかけてくれたそうだ。
「主教の息子だというのに最前線の戦地に赴き、兵士達と言葉を交わす姿を何度か見た。」
だから、好感が持てた。
「しかも素晴らしい槍さばきだった。一度手合わせ願いたいものだ。」
「相変わらず物騒なことばっかりね。」
「……しかしあれほど指導者に相応しい人物も珍しいだろうな。」
「ふーん。」
マルクがこんなに褒めるのは珍しい。
フランは改めてルーブルを見つめた。
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