会場は興奮に包まれていた。
その姿を見下ろしながら、リラは肩をすくめた。
「悪い発想じゃないけどね。」
「…見つかれば厳重注意だな。」
マルクもなるべく目立たないように頭を低くする。
「でも、混んでない。」
ユーロは嬉しそうに肩をすくめた。
そう、4人がいるのは神殿の屋根の上だった。フランが見つけたのは神殿にある背の高い木だったのだ。普通の人間では木のてっぺんからでも屋根には届かない。だが、フラン達は普通の旅人ではなかった。
ユーロはハーフのハイエルフなのだ。
「ユーロが身軽になるスペルが使えてよかった。」
そう笑うフランに、ユーロは少し複雑に笑い返す。このスペルは本日2度目だ。
「ありがとうフラン。今日はワガママきいてもらいっぱなしだね。」
「…気にするなよ。いつも世話になってるからな。」
頬を掻きながらフランは笑った。
「しかしすごい人ね…」
リラの呆れた声ももっともだった。新しい主教を一目でも見ようと人々がひしめいている。
「あそこには行きたくないな。」
多少、怒られるリスクがあってもこちらの方が断然良い。
「寝転んで見られるしね〜。」
「こら!お前よっ掛かんな!重いぞ!」
「レディに向かって重いとは何事よ!?」
「レディだって人間だろーが!」
「そういう問題じゃないわ!」
「…あぁ、そうだ。」
二人の言い合いを越え、マルクはユーロに赤い箱のようなものを渡した。
「?」
「闘技場でもらった。簡易の遠見鏡らしい。少しはマシに見えるだろう。」
そう、それは遠見鏡だった。
ユーロを助けた時にマルクが倒した選手には審判側も困っていたらしい。戦える強い生徒や師は王都の奉納試合に出払っていたとのことだ。
「ありがとう。いいの?」
「一番見たがっていたのは誰だ。」
「…えへへ。」
首をすくめ、遠見鏡を覗く。
「わぁ…初めて見たけど、こんなに見えるんだね!」
弾んだ声で喋りながら周囲を見回す。
「あ、いいもの持ってるな。」
フランが隣で声を上げた。
「うん。」
ユーロは遠見鏡を覗いたままフランを見る。
「あはは、顔が大きい!」
その嬉しそうな様子に釣られてフランは顔を綻ばせた。
「えいっ。」
リラが後ろから頬を引っ張り、それを見てまたユーロが変な顔だと笑う。周囲が騒がしいので別に気にするほどではないが、中々賑やかだ。マルクは騒ぐ三人を呆れ半分感心半分で見ていたが、舞台に映像が映り始めたので
「始まるぞ。」
と声を掛けた。
その声に3人は素早く反応し、舞台に目をやった。
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