そして翌日、ハリスは自分の目を疑った。
「うわ…」
床がピカピカに磨き上げられていたのだ。
「あ、おはようございます。」
部屋の隅にしゃがんでいるゼフィの声も朝らしく爽やかで…
「おいコラ、俺は昨日お前に休めと言ったんだ。掃除してどうする。」
眉根を寄せて近付いてくるハリスに
「一宿一飯のご恩です。体は動きます。せめてお掃除でも…」
首をすくめて小さくなるゼフィ。
ハリスは盛大にため息をつき、首を振った。
「金が無いなら回復してから働いて返してくれ。いいから朝飯にするぞ。」
「はい。」
洗っていた雑巾を絞り、立ち上がったゼフィは…
「?」
フラリと揺れて頭を壁にぶつけた。力が入らないらしく、そのままズルズルと体が床へ向かう。
「…痛っ。」
「だから言っただろう!」
真剣に鈍い。とハリスは思ったが、今はそれどころではない。
舌打ちをしつつゼフィをひょいと持ち上げ、病室まで運んだ。
「もう、お前は必要最低限以外はここから降りるな。」
ヤレヤレと首を振るハリスに、ゼフィは再び首をすくめた。
「はい。」
「とにかく食え。」
勧められた皿を受け取り、ゼフィはもしょもしょと食べ始める。
先に食べ終わったハリスは何とはなしにゼフィを見ていた。
見れば見るほど不思議な奴だと思える。髪や目の色も、奇妙な性格も。
「何ですか?」
濃いピンクの瞳がハリスに向いた。
「お前、何なんだ?」
ぶっきらぼうな質問だったが、ゼフィは意図を察したらしい。
「…魔道士です。」
「へぇ…」
「半人前ですけど。」
「里には戻らないのか?」
魔道士には魔道士の里があり、滅多に里から出ることは無いときいていた。
「もう、戻りません。」
「そうか。」
本気で家出なのだと、よくわかった気がした。
「ごちそうさまでした。」
「ん。」
皿を重ねて持ち上げ、ハリスは部屋を出る。
やはり、複雑なモノを拾ってしまったようだ





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