「無駄金使っちまった…!」
「いえ、今日は奢りますよ。」
「…へ?」
「なかなか良い店です。気に入りました。」
「…そっか。」
はぁ…と再びルークから溜め息。
「何ですか。」
信じていないのかとジェイドが少し顔をしかめる。
「いや、何ていうか…あいつとも、いつかこんな風に喋りたいって思って。」
「?」
「あいつ、突っ張ってるし乱暴だし意地悪いしムカつくし口も曲がってるけど…」
酷い言われようだ。
「でも、いなくなったら嫌だ。俺のこと、あいつのこと、きちんと全部話したい。」
「…。」
「俺、あいつなんか嫌いだった。でも、死んだら嫌なんだ。父上も言ってくれた。俺とアッシュは双子なんだ。」
あいつは嫌がると思うけど…とルークは口の中で呟いた。
「肉親を失いたくない、と?」
「あぁ。俺は…今まで色々あったけど、産まれてきて良かったって思ってる。だから、ジェイドにも感謝してる。」
「ほう?」
「レムの塔で俺、真剣に死にたくないって思った。生きていられて嬉しかった。」
そこで、少し下を向いて頭を掻く。
「…命の大切さってヤツ?気付くの、遅かったかな…。」
「死…ねぇ…。」
「ジェイドは、どうだ?」
「…あなたの言っていることは間違っていません。ただ…」
「?」
「どういうものなんでしょうねぇ…」
ジェイドは、ふと視線を逸らした。
生命活動が停止する。騒々しかった物が静かになっていく…
「…戦場でおびただしい死を前にしてなお、私には物が壊れたようにしか見えません。」
静寂はいい。
ジェイドはそう思う。
スゥ…と赤い瞳が細められる。
「私が先生の件を諦めたのは、レプリカには記憶が無いからです。」
「…。」
「記憶が何らかの方法で保存出来るのなら、私はまたレプリカを作るかもしれません。」
彼女に謝るために。
「だったら、どうして人を助けようと思った?世界を救おうと思ったんだ?」
ルークは必死にジェイドを見たが、ジェイドは目を合わさない。
「自分の居場所が無くなったら嫌ですから。結局は自己満足ですよ。…何もかも。」
いつもとは少し違う笑い方をするジェイド。
「お待たせしました〜。」
明るい声と共に料理が運ばれてきた。
「お、美味そう。」
ルークの目が輝く。
「すみません、紅茶のお代わりをいただけますか?」
「はい。少々お待ち下さいね。」
「食おうぜ。」
「そうですね。」
ミュウの前にサラダを置き、二人は食べ始めた。
「熱いけど美味いな。」
伸びるチーズと格闘しながらルークが笑う。
「そうですねぇ。」
対照的にそつなく食べるジェイド。
「美味しいですの。」
そのまま二人と一匹は無言で食事を続けた。
「ところでアレだ。アニス達はどうしたかな?」
「さぁ?大丈夫でしょう。アニスですから。」
「そうだな。」
「パフェでございます。」
皿を下げ終わったウエイトレスがデザートを持って来た。
「…なぁ、ジェイド…」
「いやぁ、お腹がぽんぽんですね〜〜。」
手伝う気はさらさら無いらしい。
ルークは再び目の前の食べ物を見る。
オレンジパフェ…という割にはオレンジが少ないような…。
リンゴと、レモンの砂糖漬けか?
でも、真っ白なクリームの上にはオレンジ色のシロップがたっぷりかかっている。
ソーダスプーンで少し食べてみると、甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
「んー‥。」
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