「…なぁセリス…」
あなたが出ていき、二人だけになったテントの中で、エドガーは呟いた。
「彼は…誰だ?」
「え?だから…」
「シド博士に甥なんていないよ。」
なんて事だろう…フィガロがそこまで帝国の情報を手に入れてたなんて…。
「…。」
返事に困った私に、王様は優しく問掛けた。
「これは推測に過ぎないが…あの男、まさか…」
「そうよ。」
私は覚悟を決めた。
「彼はアレンなんかじゃない。…ケフカよ。」
「やはり…」
溜め息を一つ。
「殺すの?」
殺すの?彼はまた殺されるの?
「彼がケフカなら、そうする理由は十分だ。世界の敵だからな。全ての元凶さ…。」
「…元凶?違うわ。彼は引金かもしれない。でも、元凶じゃないわ。」
「セリス…」
「皇帝が、国が彼を壊したのよ!」
外に聞こえて欲しくないから、必死に声を抑える。
「今更誰のせいにしても解決しないのはわかってる。でも、彼がすべて悪いわけじゃないわ。決して。」
そうよ…もう起こってしまった後だもの。修正なんか効かないわ。
「もしも彼を殺すなら…私はあなたに刃向かうから。」
研究機関に心を、私達に身体を殺されたのに…三回目はその両方が無くなろうとしている。
そんな…そんな三度目の正直は嫌。
「君にとってのケフカはなんだろうな…。」
机に頬杖をつき、エドガーは苦笑した。
「え…?」
「そこまでしてかばう、彼は君の何なんだろうな…。」
ケフカは…彼は…私にとって…
「…大切な人…かしら。友人でも、恋人でもないわ。
敢えて言うなら憧れの人…かな?いつも私を見守ってくれてた。」
いつも穏やかに微笑んでいて、民の事を第一に考える素敵な人だった。
「私は魔導士になる以前のケフカを知らない。でも…君やさっきの彼を見ていると、悪い人物とは思えないんだ。」
だから困る…と眉間に皺を寄せる王様。
「だが、いつまたあの狂人に戻らないとも言えない。そうなった時の君が心配なんだ。」
「エドガー…。」
大丈夫よ。私は。
「心配しないで。堕天使は、二度と天使にはなれないんだから。」
「堕天…か。」
その時、外の兵士達が急に賑やかになった。
朗らかな笑い声、いいぞ!とはやす声。
『?』
王様と二人で外を見る。
笑いさざめく兵士の中にいるあなたを見て、王様は微笑んだ。
「人の心を掴むのは凄腕よ。」
そう言って私も笑った。
「彼が普通の一般市民だったら、是非とも雇いたいな。」
「…ダメ。」
「あぁ……ん?」
怪訝そうな顔のエドガー。いつの間にか、私の頬を涙が伝っていた。
「ごめんなさい…。」
テントの奥に戻り、私は荷物を…正確には写真を抱き締めた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
差し出されたハンカチを受取り、顔を伏せる。
「それは…?」
遠慮がちに尋ねられ、私は抱いていた物を見せた。
「…君かい?」
「えぇ…三人で、最後に撮った写真。私の宝物よ…。」
エドガーは何かを思い出したように目を細めた。
「翼のある堕天使と、翼のない天使…か…。」
それだけ言うと黙ってしまう。
「…わかった。」
「エドガー?」
「ケフカが堕ちてアレンになったのなら、堕落っていうのも捨てたもんじゃないよな。」
「じゃあ…」
「殺さないよ。でも、今度彼が君を傷付けたら容赦はしない。」
「望むところよ。」
絶対そんな事にはならないんだから。
「よし、じゃあこの話はここまでにしようか。で?今日はアルブルグの宿に泊まるのかい?」
「えぇ。そのつもり。」
「テント泊まりは嫌か?マッシュとティナもいるから喜ぶと思うんだが…。」
「ティナもいるの?」
「あぁ。今は街へ行っているが、じきに帰ってくる。」
どうしよう…折角だからゆっくり話もしたいんだけど…
「あの、彼の件は?」
「言わないよ。三人だけの秘密にしよう。」
優しい王様…。
「秘密ってのはちょっと気分がいいよな。お〜い!アレン殿〜!」
「なんでしょう?」
すぐにあなたはやってきた。
「今夜はここに泊まっていかないか?歓迎するが。」
チラリと榛色の目が私を見る。
「もちろん、喜んで。」
結局…いつも私は甘いんだわ…。
馬鹿みたいに人をすぐ信じて…それでも何とかなっているのは、奇跡…なんだろうなぁ…。
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