翌朝はやく、私たちは塔の跡を出た。
暗い空の下、あんなにも禍々しかった塔は、青空の下で見るとなんだか滑稽だった。
少し離れたとき、振り返ったあなたは、ちょっとだけ目を細めて口元を歪めた。
「どうしたの?」
「なんでもない。」
そのまま歩き出した背中は、なんだか影が見えるようだった。
「何かしら?」
しばらく歩いていたら遠くにテントが沢山見えた。
まさか…もう?
「離れましょう。ここは危ないわ。」
「今から戻るのかい?結局あの塔で泊まることになるけど。」
笑いを含んだ声。
「大体、他の町からじゃ船も出てないよ。」
「でもっ…」
「大丈夫。破壊神は、街を焼き尽くすときに姿を見せてたのかい?」
「…いいえ。」
「なら心配ない。もう、羽も無いしな。」
結局、私は言いくるめられてテントに近付いていった。
しばらく歩くと見たことがあるような人影が近付いてきた。
がっしりした長身に人懐こい笑顔…マッシュだった。
「セリスじゃねぇか!」
「あら、久しぶり。」
「奇遇だな!どうしてたんだ?」
嬉しそうなマッシュ。
「えぇ、その辺りをブラブラ。青空の世界が見たくて。」
「なるほどな。やっぱり空は青い方がいいぜ。で、そっちは?」
マッシュの不思議そうな視線を受け止め、あなたは微笑んだ。
「アレンと申します。」
「そうか。よろしく、俺はマッシュだ。…どこかで会ったこと、あるか?」
腑に落ちない顔。
「いいえ。セリスとは昔からの知り合いですが…。」
「そうか。まぁ、いいやな。ところでセリス、兄貴にも会っていってくれよ。きっと喜ぶ。」
ガウもカイエンも一緒に来ればよかったのになぁ、とマッシュは笑いながら私達をキャンプまで連れてきた。
「俺はちょっと仕事があるから、入っててくれ。」
一方的にそれだけ言って、マッシュは私達を国王のテントの前に残していった。
「こ、こちらへ。」
前に立っていた兵士が戸惑いながらも私達を中へ通してくれた。
テントに入る。さすがに国王のテントは広い。何重にも垂れ幕をして目隠しをしているし…。
「久しぶりだな。」
エドガーは驚きながらも笑顔で迎えてくれた。」
「陛下、そちらの方々は?」
中にいた部下がエドガーに問掛ける。
「セリスと…」
「アレンです。」
にこやかに答えるあなた。
「アレン殿だ。」
「セリス…あぁ、陛下と共にケフカを倒した方々のお一人ですね。お目にかかれて光栄です。」
深々と頭を下げられる。
「いえ…」
慌てて頭を下げ返す私。でも何だか複雑な気分だ。
「ゆっくり話がしたいのだが。」
「は。」
エドガーの一言でテントから兵士達が出ていく。
「まぁ、入り口は開いたままだが…この距離なら怒鳴らない限り外には聞こえないよ。」
微笑むエドガー。
「聞こえて困るような話はしないわよ。」
「そうかい?」
その笑顔に、少しドキッとする。
「陛下はどんなご用でこちらに?」
アレンと名乗ったあなたが尋ねる。
「ツェンの街の若者が塔の探索をするらしい。その加勢に来たわけだよ。
あとは…人気とりかな?君達はどうしてここに?」
「叔父の…墓参りです。セリスから、亡くなったと聞きまして。」
「シド博士か…。残念だった。和平の会食ではリターナーの側に座って…。」
エドガーが目を伏せる。
「世界が崩壊して両親は死にました。でも…僕は…」
「アレン殿…」
「あ…すみません、こんな話…。」
寂しげに笑うあなたの横で、私はひたすら感心していた。
よくもまぁペラペラと…さすがは帝国の文官様っていうべきかしら。
「アレン…外、行く?」
「あぁ…うん…。」
「すまなかった。辛い事を…。」
エドガー…。
「いいえ。陛下…どうか、平和な世界を…」
真摯な瞳で訴えたその言葉に、フィガロの王様はしっかりと頷いた。
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