夕刻、息咳切って部屋に飛び込んだ私を、あなたはびっくりした顔で迎えた。
「どうしたんだい?」
「た、大変なの!」
私が事のあらましを語ると、帰ってきたのはいつもの笑顔。
「あぁ…来たかー。」
「どうしてそんなに緊張感無いのよっ。」
思わず両手でベッドを叩いた。
ぼさっ
と音がして、あなたがフワフワと揺れる。
「酔うから酔うから。足の擦り傷も痛いし。」
「…ごめんなさい。」
謝るほどじゃない。と首を振り、あなたは続ける。
「十分に考えられる話だろう?虐げられていた彼等としては僕の首級を上げたいだろうし…フィガロの国王だって威信のために僕が欲しいと思うよ?」
「威信…」
「そう、何と言ってもこれからはフィガロが以前の帝国の位置を占めるから。」
「エドガーは…っ!」
シーツを握り締めた手に、あなたの手が重ねられる。
「彼にそのつもりがなくても周りの人間がどう思うか…っていう問題だね。」
「ねぇ、ここを出ましょう?そうしたら…」
重ねられた手を握り返し、私は顔を上げた。
でも…
「無理だよ。僕はここから出られない。」
あなたは首を横に振る。
「何故?」
「ここは、あの僕が出来た場所。そして、決して許されない罪を犯した場所だ。僕は…存在しちゃいけない。」
静かに呟くあなた。
「でも、魔導士ケフカはもういない!こんなに崩れた塔だもの。遺体が見つからなくたって不思議じゃないわ!」
「セリス、君は早くここを出た方がいい。ここにいたら君も同罪だから。」
「馬鹿言わないで!!」
思わず、あなたの頬をはたいていた。
「…。」
一瞬、不思議そうに手を当てて…でも、また優しく笑う…その顔が憎い。
どうしていつもいつも…
「彼らは、僕の宝を取りにくるんだろう?だったら、僕も大切なものは守らなくちゃ。…それに…」
「それに?」
「僕だって一応は神だったんだ。惨めな最期は嫌だな。」
「だったら私と一緒に逃げて!」
縋りついて泣く私の肩に、温かい手が乗った。
「セリス…」
「…もう、置いていかれるのは嫌…。」
「…。」
「何回、さよならをすればいいの?レオ将軍も、シドも、あなたも…!」
しゃくりあげる私の背中をぽんぽんと叩きながら、あなたはじいっと黙っている。
「あなたが残るなら私も残る。」
「そんな…」
「あなたが世界を壊したのは、私にも責任があるわ。」
「…セリス。僕は君を殺したくない。」
真っ直ぐ、榛色の瞳でみつめられ、私は少しだけたじろぐ。
魔導士になったときから、色が変わったままの榛色。
でも、ここでひるんだら負け。
「ケフカ。私はあなたを殺したくないの。」
しばらく、無言の時間が流れる。
根負けしたのはあなただった。
「…長旅に耐えられそうな服は?」
深いため息と共に発せられた言葉に、私は思わずあなたに抱きついた。
「…勘違いしないでくれ。僕がここを出ようと思ったのは、僕が生きるためじゃない…。」





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