さらに何日かして、あなたはだいぶ記憶を取り戻した。
「セリス。僕は今までどうしていたんだ?」
真剣な顔で訊いてくるあなたに、私は何と答えていいのか解らなかった。
「世界が崩壊してしまったのはわかるんだ。でも…そこからは覚えていない。」
言えないわ…裁きの光で多くの人々が亡くなったなんて。
でも、真実を知らせないのも…。
どうしたらいいのかしら?何と言えば?
レオ将軍なら、きっと全てを語るわよね…たぶん。
「あのね、落ち着いて聞いて…」
私は意を決した。


その後…全ての話を聞いて、あなたは深い深い溜め息を一つついた。
「そうか…。」
そしてヤレヤレと首を振って呟いた。
「すまなかった。最後まで君に迷惑をかけて…しかも、僕は…まだ生きている…往生際が悪くてごめんな。」
「ごめんじゃないわよ。あなたが戻ってきてくれて私は嬉しいの。」
「…おいで、セリス。」
頭を撫でてくれる手は、あの頃ほど大きくは感じないけど…やっぱり温かい。
涙がこぼれそうになった。
「…お湯、冷めちゃった。温めてくるわ。」
「いや、そのままでいい。」
「そ、そう。じゃあ、食事作ってくる…から。」
そう言ってタオルと、ぬるい湯が入った洗面器を渡す。
「待っててね。」
部屋を後にして、急に顔が熱るのを感じた。
どうしてかしら…昔はこんな事なんて無かったのに。


何日か前に、厨房を見付けたの。狂信者達の生活の名残だけど、使わない手は無いわ。わずかだけど食糧があるから、簡単な食事なら出来る。それにしても…驚いた。魔導力が抜けたら元に戻るなんて。どんな理屈かは解らないけど、とにかく嬉しい。


「ねぇ、済んだ?」
「あぁ。さっぱりしたよ。」
扉が無いので壁越しに声を掛ける。
「お待たせ。」
スープの入った器を持って部屋に入った。
このままではいけないとは思っても、こんな生活がずっと続けばいいと思っている私がいる…。
「セリス…ワガママを言ってもいいかな。」
食べ終わって食器を重ねていると、遠慮がちな声がした。
「なぁに?」
「外の景色が見たいんだ。出てもいいかな…。」
…大丈夫かしら。大分回復したとはいえ、何日か前は瀕死だったし…。本人は自覚してないみたいだけど、夜は悪夢にうなされている。手を握ったり、撫でたりしていると、落ち着くけど…。
「歩けるの?」
「…たぶん。足は動くから。」
「ふぅん…まぁいいわ。でも少し待ってて。片付けてくるから、一緒に行きましょう?」
「ありがとう。」


いつ見ても…青空はいいと思う。
セッツァーのファルコンで知った風を切る感覚は忘れられない。
ひぃひぃ言いながら、二人で一番上まで登る。
「…はぁ…着いた…。さすがに病み上がりには、きつかったかな…。」
隣で肩を上下させるあなたを見て、私は思わず怒りの声を上げた。
「ちょっと!足!」
「ん?あぁ、まぁ…裸足だったし。」
擦り傷だらけの足を見て、初めて気付いたようにあなたは笑う。
「もう嫌!歩ける程元気なら、買い出しに行ってくるわ、私!」
「…何で?」
「決まってるでしょ?いつまでもここにいるわけにはいかないわ。服や道具を買い揃えるの。」
「あぁ…そうか…。」
崩れた塔のてっぺんに座り、あなたは空を見上げた。



翌朝、私はツェンの街まで出かけた。急げば往復で一日。街は結構賑わっていて、道行く人の顔も明るい。道具屋で必要な物を買い揃え、服屋で旅支度を整える。
「おや、あんたも探索に行くのかい?」
店主に声を掛けられて、私はキョトンと問い返した。
「探索?」
「知らないのかい?何でも街の若いのが崩れた塔の探索に行くらしいよ。ケフカの宝を探しに行くって話だ。」
まぁ、私に言わせりゃ無駄な事だがね…と締め括られ、私は思わず荷物を落としそうになった。
「…そうですか。でも、少し面白そうですね。いつ出発ですか?」
何とか素知らぬ顔で笑う。
「4日後くらいだと思うよ。でもやめといた方がいいと思うね…きっと祟りがあるよ。」
何たってあのケフカだから。
と、笑う店主に礼を言い、私は一目散に塔へ引き返した。




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