ぴちゃん…
かなり奥まで来たと思う。
「っ…。」
目の前に広がったのは、一面の…紅。
狂信者達がケフカの後を追って命を絶ったのか…。折り重なって倒れた人々から滴る血が水音の正体だった。
床に広がったものは固まりかけている。
戦場で似た光景を見たことがあった。主君を追って家臣が命を絶つ…。そんな事に何の意味があるんだか。
主のいない世界など意味が無いと思うのか、残される悲しみに耐えきれずに逃げるのか。
残される悲しみ…。
死ぬ方も辛いだろうけど、残される方だって辛いのよ。
バカバカしい…
くるりと踵を返そうとした瞬間、場違いなほど明るい色が目に入った。
綺麗な金色。淡く輝く羽根…それは、あなたの翼。
「…!」
反射的に駆け寄っていた。
折り重なる狂信者の向こう、横たえられたあなたがいる。
お腹の上に手を組んだ状態で、羽根に沈み込んで眠っていた。
近付いてみると、不思議なほど外傷が少ない。
墜落しながらも回復魔法を使ったのかしら…?
凄まじい生命力だったのね…。
でも、三闘神が消えたから…。ティナでさえ命が危なかったんだもの。あなたが生きていられるわけないわ…。
お墓…作ってあげないと。
唐突に思った。何故かな?
でも、そうしなきゃいけない気がした。
ねぇ、離れましょう?この地から。ここにあなたが眠るなんて悲し過ぎるから…。
右胸にある浅い傷は、たぶん、回復しきれなかったティナの剣の傷…。
傷口にそっと触れてみる。
ひくっ…
「!」
き、気のせいよ。動くはずなんかないんだから。
でも…いえ、違うわ。生きてるわけ、ないんだから…
トクン…
首筋の微かな脈が手に伝わってきた。
…生きてる?
…生きてる!?
…生きてる!
息が苦しくなり、呼吸が荒くなる。
このまま見殺すべきなのかしら?それとも…?
バクバクと鼓動を続ける胸を押さえ、私は考えた。
あなたに魔導の力はもう無い。戦闘能力は私の方が優れている。まだ狂っていても手にかけるのは簡単だ。
でも…殺せるのかな…。やっぱり手加減して…ううん、大丈夫。今のあなたは翼も魔導力も無い、ただの狂人なんだから。昔のあなたじゃないんだから。
でも…



結局、私は一大決心をしてあなたを私の部屋の跡まで運んだ。
ベッドを整えて、クローゼットを引っ掻き回して寝間着を探して、何とか寝かせて、ありったけのフェニックスの尾とハイポーションを使う。
我ながらバカな女だと思うわ。殺すために看病するなんて。
だけど…


「う…ん…。」
翌日、あなたは目を覚ました。
私はベッドの端に突っ伏して眠っていたけど、肩に当たる手を感じて目を覚ました。
「ん…?」
「君は…?」
初めて会った日と同じように、首を傾げる姿。
「あ…!」
私はガバッと身体をもたげた。
「目が覚めたの?セリスよ!私、セリスよ?」
「セリス?」
あなたはキョトンと呟き、クスクスと笑う。
「冗談は良くないな。セリスはもっと小さな女の子のはずだから。」
記憶に混乱があるみたい。でも…昔と同じ!
「そう…とにかく今は休んで?体力つけないと。何か食べる?」
「いや、今はいい。どうもありがとう。」
それだけ言ってまた眠りについた。
昔のままだ…!
私はしばらく、冷めない興奮と戦った。





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