空が白み始めた。
平野を吹き抜ける風が髪を弄び、頬を打つ。
ここは瓦礫の塔の跡。
かつてはここにベクタがあり、狂々しい塔があった。
でも、今は廃墟…いや、廃墟ですらない。
ここには人間などいなかったのだから。
ここにいたのは魔物と…神だけ。
歪んだ…破壊神…

私は、かつて帝国の常勝将軍と呼ばれていた女。
そして
悲劇を織り上げた一本の糸…。


何を見付けたというのだ。
崩れ行くこの世界で…

瓦礫の塔の最奥で、あなたはそう告げた。
「壊れるとわかっていて何故つくる?
死ぬとわかっていて何故生きようとする?」

その心に潜んだ深い深い絶望は…
狂気故なのか、それとも…
六枚の羽根を広げた魂の器の中には、飲み込まれまいと抵抗するあなたの意思がまだあるのか…もう飲み込まれた後なのか…私にはわからなかった。
一つだけはっきりしていたのは、私があなたを止めなくてはいけないということ。
魔導士ケフカは人を殺し過ぎた。魔大陸で私がしくじったばかりに…。あなたは皇帝を殺し、自らが三闘神の力を手にした。世界崩壊の一端は、私が担っているのよ。だから…責任を果たさなくてはいけない。この手で歪んだ神の歴史に終止符を打たなくてはいけなかった。


夢中で戦った。
何も考えず、ただ一番上にいるあなたを目指して。情けない話だけど、殆んど何も覚えていないの。気付いたら、ティナの剣があなたを貫いて…あなたは闇の中へ落ちていった。


崩れる塔の中から逃げる時、ロックのバンダナを落としたわ。孤島で拾ったバンダナ。返そうと思って忘れていたバンダナ。戻って拾い上げた時、足元が崩れた。グラッと身体が傾いて、落ちると覚悟した時…初めて走馬灯っていうものを見たの。
帝国であなたやレオ将軍と過ごしたこと、リターナーに組みしたこと、世界が崩壊したこと、おじいちゃんのこと…
そして思った。
落ちてもいい、二人やおじいちゃんのところへ行けるんだ…って。
でも、私は落ちなかった。手を掴まれたのよ、ロックに。
彼は必死な顔で
「死なせない!絶対に!」
って叫んでた。
本当に優しくて…正義感の強い人。でも、時々悲しそうな目をする人。彼は私とレイチェルを重ねていたみたいだけど…私も彼とあなたを重ねていたのかも。
引っ張り上げられて走り出してからも、私の胸には影があった。
二人の分まで生きられるのかな…
とか
これから、どうなるのかな…
とか。
とにかく私は使命を果たしたの。果たしてしまったのよ。
これからどうするかなんて見当もつかなかった。


ぴちゃん…
歩いていた私の耳に、小さな音が届いた。
「…?」
水の音…?
ぴちゃん…
気になったので歩き出してみた。
「ここは…」
崩れた塔の中。少し開けた場所に出た。
そこは、かつて私が暮らしていた部屋。
奇跡かしら?ほとんどそのままだった。
簡素な家具とベッドが一つ。
「!」
唐突に思い出した。
写真…三人で撮った最後の写真。
シドにせがんで撮ってもらったんだ。
まだ、あるかな…?
眺めても辛くなるだけだと思ったけど、どうしても捨てられなくてとっておいたはず。
どこだったかしら…
ごそごそと塔の残骸をどけて片付ける。
クローゼットの隅、ベッドのマットレスの下…
「…あった。」
見付けた。
金属で縁取っただけの飾り気のない写真立て。
写っているのは三人。
腕組みをしてぶすっとしているのがレオ将軍。
にっこりと穏やかに笑っているのがあなた。
二人の間ではしゃいでいるのが私。
こんな風に笑ってたんだ…あの頃は…。
と、我ながら感心する。
肩に掛けていた袋に写真をそっと仕舞う。
ぴちゃん…
いやにはっきりと聞こえる水音。
本来の目的を思い出し、奥に向かって足を進める。
しかし私は何をしているんだろう?
仲間とさようならをして、「一緒に…」との誘いも断って…足を向けたのがこの場所。
私が他に帰る場所を知らないからかな…。
何も無いのに。
いえ、あるのは、想い出だけ。綺麗なものもそうでないものも、全てここから生まれてきた。
ぴちゃん…
あなたが壊れてから、何もかも忘れたくて、命令されるまま人を殺した。
それから、レオ将軍を殺して、シドを殺して、また沢山の人を殺して…
最後に一番大切な人を殺した。
帰りたいと願った。どこかではなく、あの頃へ。
何度も、何度も。



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