私の実験は成功した。
レオ将軍と並んで私も将軍に任命され、ひたすら…戦うだけの毎日だった。
あなたを…戦場に出したくなかったのよ。
狂ったあなたは魔導の力を持つ娘…ティナを使って侵略するから。捕虜なんか作らずに、皆殺しにしてしまうから。
私と同じ歳の娘に操りの輪をつけ、戦わせるなんて…。いくら狂っていると知っていても、私はあなたに手を汚して欲しくなかった。そして彼女にも。
それはレオ将軍も同じだったみたい。常に冷静に物を見る彼が、あなたのことになると…少し動揺してた。同じ戦場にいたくない…って。
だってそれ程に…あなたの道は血塗られていたから。人間のする殺し方じゃないから。壊れていたから…。
それが間違いだと知ったのは、サウスフィガロを侵略した時。
あなたに、まだ心が残ってたなんて…。


ティナとエドガーに逃げられたと言ってふてくされたあなたは、屋敷の一番奥の部屋にいた。
たまたま用事があったから、私はあなたの部屋に顔を出した。その時、あなたは床に座って肩を震わせていたわね。でも…笑ってるんじゃなかった。
「ケフカ、その顔でベッドに突っ伏すと化粧が写るわよ。」
狂ったといっても一応会話は成立する。だから、私もレオ将軍も喋ってはいたわ。あなただとは思わず、別人として。
「聞こえてるの?」
腕を組み、呆れた顔で近付く私。あなたはシーツからゆっくりと顔を上げた。
「…セリス…。」
「!」
身体が震えた。
だって、部屋を出たあの日から、名前で呼ばれた事なんかなかったもの。
「大きく、なったね…」
ふ…と優しく笑う青灰色の瞳には嫌というほど見覚えがあった。そこにいたのは、間違い無く本当のあなただった。
「ケフカ!あなた…戻ったの!?」
思わず駆け寄っていた。
「いや…飛び飛びに意識が…っ…!!」
バン!
と床に拳を叩き付け、あなたは再びシーツに顔を埋めた。
「大丈夫?痛いの?」
肩に手を掛けると、そっと手が重ねられた。
「…頼みがある。」
「何?」
「僕を、殺してくれ。」
「な…何言ってるのよ!」
「頼む。このままでは完全に狂気に飲まれてしまう…その前に、早く…。今の僕を生かしておいても悲しみしか産まれない。自殺は出来ないようにされてるんだ…頼む、もう終わりにしてくれ…。」
「…。」
この時初めて、私の中に皇帝を憎む気持ちが産まれた。全てを欲した為に、あなたをこんな風にしてしまった皇帝が憎くなった。
「…わかったわ。」
スラリと腰の剣を引き抜いた。
あなたを殺し、皇帝も手に掛けてやろうと思った。こんな悲しい犠牲の上に立つ帝国なら、いらない!
「すまない…君にもレオにも…」
「ううん、あなたは悪くないわ。」
私の手は、もう汚れているから…
「強くなったね。それから…綺麗になったよ。」
「ありがとう…」
「こちらこそ。」
俯いたあなたに剣を振り上げた私の身体は、少し震えていた。
「あぁ〜っ!!」
突然あなたは顔を上げた。
その目にさっきまでの光は無くて…あるのは…狂気。
「助けて〜!セリス将軍に殺されるー!!」
大声で叫び、兵士を呼び寄せた。
そして私は投獄された。


ロックに助けられた時、地下道を逃げながら私は誓ったの。
あなたを殺す事を。



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