・エピローグ

二人は静かに語り終えた。
『続きは、また次の機会にいたしましょう。』
二つの声はいつも一つだ。
村人達は揃って残念そうな顔をしたが、村長が時間を告げると、しぶしぶ立ち上がった。
もう、明日に備えて眠った方が良い時間だ。
「ねぇ。」
殆どの村人が帰った後で少年が一人、二人の近くに来た。
「なぁに?」
フルートが微笑む。
「ユーロはナイラに食べられちゃうの?」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。ライラが困ったように笑う。
「それは、続きのお楽しみ。」
「食べられないわよ。」
少年の後ろから、少し年かさの少女が近付いてきた。たしか、姉弟だったはずだ。
「お姫様はナイトが護ってくれるって決まってるの。どんなお話だってそうだわ。」
つん、とすまして少女は言った。
ライラとフルートはやはり顔を見合わせ、クスクスと笑った。
「それはわからないわ。この物語は、実際にあった物語だもの。戯曲として書かれたものじゃないのよ。」
「そう、ヒトの一生なんて悲劇もあれば喜劇もあるから。」
二人が口々に答えると、姉弟は少し不満そうに顔をしかめた。
「ライラもフルートも知ってるんでしょ?」
『もちろん。』
「でも、先を知ったら面白さは半分になっちゃう。だから秘密。今度のお話を待ってて。だから、今日はお休みなさい。」
フルートは二人の頭を撫で、ライラと一緒に村の広間を後にした。


「食べられちゃうの?か。」
帰り道、山道を登りながらライラが笑った。
「“美味しい”は少し、解り辛かったかな?」
フルートは首を傾げる。
「まぁまぁ、大きくなってもこの話を覚えていたら解るよ。」
「覚えててくれるかな?」
「…どうだろうねぇ。」
ふと、ライラはフルートのベールをつまんだ。
「?」
「やっぱり、食べるっていうより吸う、だから首筋だよね。」
ライラの手がするりと動き、フルートの白い首筋が露わになった。
「や、やめてよ。ライラったら。」
怖がりのフルートは慌てて首筋を押さえる。夜道は暗いし、ここには二人っきりだ。
脅かされてもつかまれる人もいない。
「あはは、大丈夫だって。いくらなんでもそんなこと出来ないよ。」
「…ライラ?」
「ごめんってば。あんまり怖がるからいじめてみたくなっちゃっただけ。」
ライラは首をすくめ、ユーロはそれを軽く睨んだ。



『それは、一人の少女の物語。』



二人の吟遊詩人〜月影の詩〜
                                 fin




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