その後、母としばらく歓談し、今は昼食の入ったバスケットを持って神殿の外を歩いている。
早い話が執務室から逃げたわけだが、昼食くらい好きなところで食べたっていいだろう。
神殿の周りはグルリと森があるので、参道を少し離れると、静かな森が楽しめる。
シオンやルナリアには秘密の場所で昼食開始だ。
(お。)
今日の昼食は肉の入ったパイだ。水筒に入った冷茶とよく合う。やっぱり冷茶は砂糖無しが一番美味い。
それに木の上とくればまた格別…
「レアル様!」
突然声を掛けられ驚いて下を見る。
白銀の髪をした少年がいた。
「何だ、どうした?」
「どうしたもこうしたもありません。神殿に伺ったら手が放せないと言われまして。」
で、ここに来たのか。やれやれ…。
「つけられてないだろうな?」
「もちろんです。」
「ん、ならばよし。上がって来いよ。」
「はい。」
登ってきて、俺の隣に座ったコイツはルーブル。王国の三大公爵家のひとつ、アンダルシア家の長男だ。要するに、次期主教。
成功と勝利を司る武神トライエを祭る勝利宮は、その名の通り武術が盛んだ。ルーブルの父であるターラー主教は一角獣の騎兵隊長だし、こいつも、まだ12なのに武人の卵をやっている。
三年くらい前、異母妹が産まれたときに名付け親を任されて以来、妹が可愛くて仕方ないらしい。
「歩いたのです!」
心底嬉しそうな声。
「私の見ている前で、初めて歩いたのですっ。」
「へぇ。そりゃまためでたいじゃないか。ターラー殿も喜ぶだろうな。笑うかもしれんなぁ。」
ルーブルの父親は表情があまり変化しない。笑顔なんて、見た記憶があっただろうか。
「はい。それから、明日から竜の小屋に入っても良いという許しが出ました!」
「お、遂に出たか。聖騎士に一歩近付いたな。めでたいめでたい。」
聖騎士というのはこの国の飛竜を扱う騎兵だ。優れた武術と法力、それに強い精神が必要とされる最も難しい騎兵だ。
ルーブルは竜が大好きだし、素質もあるだろうし、頑張って欲しい。





ひとしきり話すと、ルーブルは一言礼を言って帰って行った。
昼食も終わり(まだ食べていないとかいうどこかの少年に半分やったが)、もうそろそろ神殿に帰ろうとした矢先…
ピチチチチチ…
一羽の小鳥が目の前の小枝にとまった。小鳥はじっと俺を見て、また鳴く。
ピチチチチ…
「?」
しばらくにらめっこをしていると、すぐ側の空気がぐにゃりと歪んだ。
刺客か!?
慌てて防御のスペルを唱えると、そこに現れたのはバーツだった。
「…。」
若干の拍子抜け。
「なんだ、お前か。」
ため息混じりに言うと、例のごとく不機嫌そうな顔で話してきた。
「今晩また部屋に行く。同じ時間でいいか。」
「今晩!?おいおい、今晩は書類に潰されてる。」
「それはいつものことなんだろうが。」
…確かに。
「わかった。続きのことか?」
「たぶんな。」
たぶんってお前…自分が来るんだろうに。
「じゃあ。」
「おい!」
それだけ言うと、バーツは姿を消した。
あぁ、ラトが来るのかもしれないな。昨日はすぐにナイラと一緒に寝かせてしまったから。




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