プロローグ



窓から日が差刺し込む。
「ん…」
ベッドの上で、フルートはゆっくり目を開けた。ぱたんと寝返りを打つと、隣のベッドで眠るライラがいる。
起きようかな…と思い、床に降りて伸びをした。
「ふぁ…」
小さく体を震わせてから一息。
窓の外は朝靄のかかった山が並んでいる。
「朝だよー。」
相棒の顔を覗き込むが
「むー‥」
ライラは小さく唸ったっきり動かない。まぁ、寝起きが悪いのはいつものことなのでフルートは気にしない。
「ご飯作ろうよ。」
身体を屈めて肩をゆすると、ライラの白い腕が伸びてきて、フルートの肩に掛かった。
「?」
ぐいっ…
「わっ…!」
強く引かれて、フルートはライラのベッドに倒れこんだ。
「眠い。」
耳元で相棒の声がする。
「見ればわかるよ…。」
フルートがため息混じりに言うと、ライラは目を閉じたまま笑った。
「じゃぁ、もう少し。今日は予定も無いんでしょ?」
「まぁ…ね。」
「だったら問題無いよね。」
フルートに掛け布を被せ、ライラはまた寝息を立てはじめる。
(これだけ動けるなら起きればいいのに。)
もう一度ため息をつき、フルートは目を閉じた。


起きたのはお昼も近くなってから。
「……。」
ベッドから身体を起こし、目を擦っていると、相棒の声がした。
「おはよう。」
「あれ…!?」
キョロキョロと部屋の中を見るフルートに、ライラは悪戯っぽく笑った。
「あんまり気持ち良さそうだったからご飯作っちゃった。」
「あ…ごめん…。」
すまなさそうに首を竦める相棒を見て、ライラは心外だという顔をする。
「いいよ。たぶんこっちが引っ張り込んだんだろうし。」
どうやら覚えていないらしい。
「それより、早く食べよう?」
「…うん。」
二人は小さな庭に出た。
家が斜面に建っているので庭は少し斜めだが、湖を一望出来る特等席だった。
この村にとどまる条件として、ライラが村人に出した条件がこの家を貸してもらうことだったのだ。やわらかい草の上に布を敷き、二人は並んで座る。
『いただきます。』
バスケットに詰めたサンドイッチと、キノコのクリームスープ。村人からの二人への待遇は素晴らしかった。歌いに行くたびに食材を色々とくれる。
食べ終わった頃、日差しが強くなってきたので二人はいつものように布を被った。
「美味しかったね。」
フルートが言うと、ライラは嬉しそうに笑った。
「ありがと。」
「夕飯は私が頑張る。」
「えー、一緒に作ろうよ?」
「負けないもん。」
「意地っ張り。」
「とにかく、私が作る。ライラばっかり作らせられないし。」
「はいはい…。じゃ、お任せします。」
「うん、任された。」
今度はフルートが嬉しそうに笑い、ライラはそれが面白くて嬉しくなった。
フルートは立ち上がり、湖の方を見る。
日の光を浴びた湖面はキラキラと輝きながら周囲の山を映していた。
「ね、何かお話しして欲しいな。」
振り向きざまの唐突な言葉に、ライラは少し面食らう。
「え…でも…。詩は全部知ってるんじゃない?」
二人の共有物だもの。と、ライラは言いたいらしい。
「詩になってないやつ。ハッピーエンドがいいな。」
「ワガママ姫だなぁ。」
「ライラもでしょ。」
即座に言い返され、多少複雑だ。
「うーん、じゃあ、いいよ。一つお話ししようかな。」
「やった♪」
フルートが裾をはためかせながらライラの隣にちょこんと座る。
「これは、昔々のお話です。とある領主様のお話です…」





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