「おしまい。」
ライラは一息ついた。
「…知らなかった…。」
フルートは下を向いたまま、ぽつりと呟く。
「ん?」
「何となくはわかってたよ。でも少し不思議だったの。私が知ってる話のナイラの詩は月影の詩だけ。
あのナイラがどうしてそんなに世界が憎んでたのか。」
「…そうだね。でも、これだけが原因じゃあないと思うよ。」
「まだ、あるの…?」
「思い返してみて。月影の詩のナイラは、どうだった?彼を破滅に追いやろうとしたのは何?」
「…。」
フルートは悲しそうに膝を抱えた。
「でもさ、」
ライラはフルートの顔を覗き込んだ。
「彼は常に不幸だったわけじゃないじゃない?人生なんて、いいことと悪いことはトントンなんだから。
ほとんどの悲劇の伝承には、幸せな時期の描写なんて少ししかないよ。」
「…そうだね。」
「それより、お腹減ったよ。」
「え?」
気がつけば、日が傾きかけている。
「結構長いお話だったんだね。」
フルートは立ち上がり、服についた草を払った。
「夕飯、何にしようかな。何食べたい?」
「干し肉があったよね?お肉の料理がいいな。」
「はーい。」
「ねぇ、手伝うよ。」
ライラはフルートの後を追って立ち上がる。
「いいの。休んでて。」
「ケチ。」
「あ、じゃあお茶煎れるから飲んでて。喉、渇いたよね?」
「そうだね。じゃあ、お茶でも飲みながら待ってようかな。」
「そう。それがいいよ。」
二人は籠を抱えて小屋へ向かう。
「あぁ、でも、話し相手はお手伝いにならないよね?」
ライラの発言にフルートは少し考えた。
「まぁ、ね。」
「拗ねないでよ。」
「ライラより寝坊したのが少し悔しいだけ。」
「もう!たまにはいいでしょ?」
ライラは頬を膨らませ、フルートを見る。
「何だか悔しいんだもん。」
「寝坊すけに寝かせといてもらったから?」
「…うん。」
「ちょっとひどくない?」

『…。』

ドアノブに手を掛けたまま、二人は睨み合った。

『…ぷっ…あははは…』

でもすぐに二人は笑い出す。
「じゃ、一緒に作る?」
「うん。」
ライラが頷くと、二人は仲良く小屋の中に入って行った。


                                                                  end.

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