ゴゴが出ていった後、シャドウは一人で溜め息をついた。
あんな疲れる奴を拾うんじゃなかったと思う反面、この状態を少しだけ楽しんでいるのも事実だ。
いつも人の真似ばかりしていたので話すだけ不毛だと思っていたが、実はあんなに気の強い女だったとは。
彼の頬を張った女と言ったら…
「…フン。」
面白い事になってきた。何が目的なのかは謎だが、このまま茶番に付き合うのもいい暇潰しかもしれない。
特にやりたい事も思い付かないし。
「おーい。」
ゴゴが帰って来た。
「只今の持ち合わせは?」
「…大体2000だ。」
財布を見ながら答える。
「そうか。俺は大体お前の半分だからな…」
ゴゴはしばらく考えた後、ポンと手を打った。
「よし、路銀を稼ごう!」
「は?」
「ほら、俺もお前も新しい服がいるし。食費もかかるし、船代もいるし、宿代もあるし…」
パタパタと指折り数えていくゴゴ。
「と、いうわけでその覆面取れ。」
「何故。」
不機嫌に問い返すと、強い光を湛えた目がずいっと寄って来た。
「お前なぁ、俺にだけ稼がせるつもりか?ボディーガードってのは依頼者を守るんだろう?全ての危険から。金が無さ過ぎて俺が餓死したらどーするんだ。」
凄い勢いでまくしたて、付け加える。
「怒ったリルムでした。」
「……。」
完璧に呆れきった目を向けると、今度は突然とろけるような笑顔になる。
「だからそれを取って欲しいんだ。こんな覆面をした奴を雇う物好きなんかいないぜ?」
「今度は誰だ。」
「ご馳走を前にしたマッシュ。」
「…そうか。」
本当に疲れる女だ。
「大体その変わり身の早さは何だ。」
ゴゴは少し眉をしかめた後、ピッと指を立てた。
「エドガーがな、恋は押したり引いたりが大事だって言ったから。」
「駆け引き、だろう。しかし何故…」
「まぁ、いいんだ。それから『劇的な出会いをした男と女がいたら、問答無用で恋の予感』とも言ってたな。」
誰に何を教えていたのだあの国王は…。
「とにかく取れ。さもないと取るまで恋する乙女を演じるぞ。」
…それはかなり鬱陶しい。
「…わかった。降参だ。」
特大の溜め息をつき、シャドウは覆面を取った。
バサッと灰色の髪が額に掛る。
「へぇ…」
現れた顔を見て、ゴゴは素直に感心した。
「ちゃんと人間の顔じゃないか。」
「……。」
相変わらず鋭い目付きだが、まぁ、そこまで恐くはない顔だ。
「良かったぜ、化け物みたいな顔じゃなくて。しかしその目付きじゃあ接客は無理だろうなぁ…」
ぶつぶつと呟き、しばらくしてポンと手を打つ。
「よし、とにかく見た目から何とかしようぜ。」
シャドウの手を掴んで引っ張る。
「待て。」
「ヤダ。こんなボロボロは嫌だ。というワケで行くぞ!」
ゴゴは強引にシャドウを連れ出した。
世界に平和が戻って、二日目の昼だった。
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